2016年8月28日日曜日

ZAZEN BOYS/すとーりーず

日本のオルタナティブロックバンドの5枚目のアルバム。
2012年に自身のレーベルマツリスタジオからリリースされた。
私が買ったのはデジタル版でボーナストラックが1曲追加された全部で12曲。
ZAZEN BOYSといえば向井秀徳さんであり、向井さんといえばNumber Girlであろう。いうまでもなく日本のオルタナティブロックバンドであり、その影響は大変大きいのではなかろうか。私はばっちりその世代であり、MutomaJapanで「透明少女」のMVを見て以来のファン。思春期にありがちな「邦楽はクソ」時代でもその例外になっていたもの。さすがに同級生みんな聴いてたとはいわないが音楽好きな人ならNumber Girlかスーパーカーのいずれか、あるいは両方を聴いていた。
Number Girlは2002年に解散。その後ギターボーカルを勤めたフロントマン向井さんが組んだのがこのZAZEN BOYS。Number Girlの幽霊を追い求める私はチラチラ聴いたものの、Number Girlとの方向性の違い(これもちゃんと聴いていないから適当な判断なんだけど)とそれを「わからない(理解できない)…」と認めるのが怖かったのかちゃんと作品を聴く事はなかった。今回たまたま視聴した楽曲がかっこ良くて本当に何となく買ってみた。

Number Girlは何ともいえない衝動(よく性的衝動という歌詞が出てくる)を焦燥感のあるキャリキャリギュンギュンしたギターにこめて打ち出した音楽でなんとなく全体的に青春の目のくらむ様な青い感じがあった。後期は歌詞がその青さを脱して念仏的になり、ラップを大胆に取り入れたりとその形を買えていったものの根底はやはり轟音ギターロックであった。
ZAZEN BOYSはそんな後期のNumber Girlの特異な要素を抽出して突き詰めた様な音楽性という事が出来るかもしれない。ただし音楽性はかなり異なる。恐らくファンクだったり、プログレッシブだったりするのだろうが私はその方面全く明るくないので、何を言っても知ったかぶりになってしまう。なんとか自分なりの感想を述べていきたい。
まず全体的に音色は明るく明快。楽器陣はドラム、ベース、ギターそしてキーボード(シンセサイザー)でそれぞれの出す音は非常にクリアで乾いていて分かりやすい。弦楽隊の音は適度に歪ませて入るのだろうが、基本最低限という感じでクリーントーンが主役。恐らくメンバー全員がとてつもないテクニックの持ち主なのだろう。これらが比較的短い曲の中にぎゅっとまとめられている。全曲そうだといえないのだが、一つの指向性としてリズムが非常に重視されており、曲によってはほぼリズムで構成されている。変な言い方だが、全部の楽器がぶっちり千切れており、それを一子の狂いもなく打ち出してくる。曲を聴くのが手っ取り早いのだが、すごく乱暴にいうとギター、ベース、そして曲によってはボーカルをドラムとシンクロさせて曲が進んでいく感じ。普通曲は始まりと終りが当て、曲によっては展開はありつつも主題というか特定の(複数の)リフを反復させていくのだと思うが、ZAZEN BOYSはこのリフが極めてシンプル。確かな技巧でもって相当難しい事をやっているのだろうが、出す音は一見シンプルで最低限だ。(例えば超絶技巧のスラップまくりや超速弾なんてのは皆無。)ただこれはどれかがずれるととてもかっこわるいのだが、どれもぴたりと合っている。(ちなみにライブ動画を見てもぴたりと合っている。)これによくわからない歌詞が乗ってくるのだが、曲が進んでくると(多分)リズムが意図的に変更されていて分け分からなくなる。で反復的な歌詞もわざと順番を買えて変なくっつけ方でのせて来たりする。(曲でいうと「ポテトサラダ」とか)この計算された混乱ぶりが大変面白い。なるほど曲によってはいわゆるポップ性は希薄だが、リズムが強調されているので「難解過ぎてわからない」ということにはならないと思う。「よくわからなくてスゲエ」のだが正座して拝聴します、といった類いのものではなくとても肉体的。
と、こんな感じなのだが私このアルバムの「はあとぶれいく」という曲が本当に気に入ってしまった。この曲は多分このアルバムの中で一番分かりやすい(敢えていうと一番Number Girlっぽい)のだが、(これも多分)展開が逆に酷く単調でほぼ一本調子に進むのだが、そこに乗る歌が非常にエモーショナル。歌詞もよくよく読むとどうもおかしく精神のバランスを損なっている気がする。あまりこんな事いうのは好きじゃないのだが(最上級をいっぱい使ったら当然その価値がないので)かなり、最高ってやつだ。
中でもこうだ。
「いつか悪魔と対決する日を待っている
 惰眠を貪り食っている
 悪魔が来るのを待っている」
悪魔を待っているのだ。私もだいたいそう思っている節がある。悪魔なんていないのだ。もしいるにしても倒しにいかないで昼寝して待っている。くるはずがないのを分かっているのだ。卑怯な心だ。この何ともいえない駄目さ、これがとんでもなく心に刺さるのだ。向井さんはこういう歌詞を書かない様な気がしていたからちょっと驚いた。本当にこの曲ばかり聴いている。他の曲も良いのだけど、この曲だけでも「すとーりーず」というアルバムを買って良かったと思う。こんな曲に出会えることは中々ない。ちなみに「はあとぶれいく」の他にも意外にメロディアスな曲はあるのでご安心ください。
という訳で個人的には大変良いアルバム。もし興味が出て来た!って人がいたら是非どうぞ。
リズムの塊「ポテトサラダ」。

こちらはZAZEN BOYSではないのだけど「はあとぶれいく」。最高。

Oathbreaker/Eros|Anteros

ベルギーはヘントのハードコアバンドの2ndアルバム。
2013年にDeathwish Inc.からリリースされた。
2008年に結成された4人組のバンドでボーカルをとるのは女性。
このアルバム発売当初幾つかのサイトでレビューされていた事もあり名前は知っていたが、なんとなくスルーしていた。
2016年に新作がリリースされるにあたり新作に収録されている曲が幾つかネット上で公開されているのだが、それがあまりに良かったため目下の最新作を購入した。タイトルの「エロース|アンテロース」はそれぞれギリシア神話の愛の神のことみたい。

新曲のビデオがこちら。ブラックメタルに取り憑かれたハードコアという感じでトレモロの嵐が凄まじい。女性ボーカルはなりふり構わない叫びから、情念こもったクリーンまでこなし、凄まじいテンションで突っ走る8分間。これはちょっとすごい。

じゃあこちらの音源はどうなのかというと基本的な路線は同じ。ブラッケンドハードコア。女性ボーカルといってもドイツのSvfferの様なパワーバイオレンス/グラインドコア要素はそこまで強くない。Convergeは情け容赦のないハードコアだが、その根底には間違いなく色々な感情が渦巻いている。このバンドはそういった意味ではConvergeに似ている。多分に感情的なので激しい音楽なのだがとても共感しやすい。楽器の音も真っ黒い壁の様な最近のクラストの様などうしようもない終末感はなく、生音を活かした感じでまだ血が通っている感じ。なるほど音の迫力で劣るのだろうが、なんといっても感情が乗りやすいエモーショナルなサウンドだと思う。この音の作り方は非常に好きですね。
女性ボーカルは8割型叫んでいる。ただ叫びすぎて男性だか女性だか分からない類いのものではなく、間違いなく女性が叫んでいるんだなと分かるもの。残りの2割でクリーンを入れてくるのだが、ぽつぽつ呟くような恐ろしげなものでメロディ性は全体的にほぼ皆無。女性の強みを活かした、というとあまり良くない言葉かもしれないが、男性とは明確に異なる情念の強さみたいなものがうり。これが脆さもある演奏とすごく合う。やや不安定というか想いが強すぎる故に病んだような物語性があるとても良いボーカル。
演奏の方は洪水の様なトレモロリフはいかにもブラッケンドな感じだが、全編トレモロの嵐というわけでもなくかなり練られている。これがかなりかっこ良くてとくにボーカルが入っているときのバッキングでアルペジオを投入して来たりとハードコアにしてはかなり凝っていて音の数が多かったり、逆に伸びやかに演奏したりとかなり多彩で、なにより大変メロディアス。ボーカルがヤバい分、メロ成分はギターが一手に担っているといっても言いかもしれない。ブラックメタルだとトレモロが非常にメロいことはありがちだが、トレモロ意外でもキャッチーさを出してくるのは面白い。音の幅も低音〜高音と広くて単調になりがちな曲が適度に光っている。(勿論ぴかぴかしすぎてはいない。)
ジャンルとしては間違いなく(ブラッケンド)ハードコアなのだろうが、分かりやすいスタイルに迎合しないで自分たちの音楽性を確立させている印象。

新曲のビデもでもそうだけど、ライブでも濃紺のローブの様なものを着込んだりと結構見た目にも気を使っているみたい。これは新作でぱーっとブレイクするかもですね。待ちきれないという方はまずこちらの音源を是非どうぞ。私はなんで発売当時に聴かなかったんだろうと思うくらい気に入りました。

2016年8月27日土曜日

ヘニング・マンケル/北京から来た男

スウェーデンの作家によるミステリー小説。
名誉ある賞を獲得した刑事ヴァランダーシリーズを始め様々な分野の小説で北欧を代表するヘニング・マンケルのシリーズ物でない独立した本。

2006年1月ノルウェーとの国境近くの寒村ヘッシューヴァレンで住民のほとんどが鋭い刃物で惨殺された。被害者のほとんどは老人で、子供が一人だけ混じっていた。老人のほとんどは親類関係にあり、過疎だが平和だった村。当然恐慌の動機は判然とせず、捜査は難航。ヘルシングボリで裁判官を勤めるビルギッタは殺された被害者の中に母方の親類がいる事に気づき、休暇を利用して現地に赴く事にする。

寒村で住民皆殺し、というとなんとなくジェームズ・ロリンズのようなモダンなホラー小説のような幕開けだが、流石はヘニング・マンケル、衝撃的な冒頭で読者の興味を惹き付け、どっぷりと深い深い歴史にまつわる物語に引き込んでいく。
現代は「KINESEN」でこれは中国人という意味。「北京から来た男」というタイトル通り、スウェーデンの田舎で起こった事件は、中国、アフリカとその幅を大きく広げていく。元々モザンビークに住んでいた(後年はスウェーデンと半々で生活していた)マンケル、その視点はスウェーデンにとどまらず前述の代表作刑事ヴァランダーシリーズでは1作目「殺人者の顔」で移民問題を取り扱い、早くも2作目「リガの犬たち」でその舞台を海外に広げている。以降はとくにアフリカなど途上国を中心に世界的な観点でもって広がりのある物語を書いてきた。この「北京から来た男」はそんなマンケルの一つの集大成ともいえるのではなかろうか。
今回中心になるのは中国。中国というと日本からすると一番近くの大国。近い訳だけど実はどんな国なのか知らない人は多いのではなかろうか。私もそんな一人で毛沢東って悪いやつなの?中国って共産主義なの?天安門事件ってなんなの?位の気持ちでいた訳だが、本書はそんな謎に分かりやすく回答していってくれる。中国の歴史、それも近代中国の歴史は受難の連続だった。慢性的な貧困しかり、アヘン戦争しかり。本書のもう一人の主人公ワン・サンは2人の兄弟とともに若い自分に村を追われ、アメリカに奴隷として売られ、死と隣り合わせの過酷な状況で鉄道線路敷設の仕事に使役される事になる。絵に描いた様な悪辣な現場監督、逃亡すればおいかけ連れ戻され、病になればそれは死を意味する。地獄の様な環境でワン・サンは望郷の想い強くし、必ず兄弟とそして無念の内に死んだ仲間(仲間の体の一部から肉を削ぎ落とす描写は中々に衝撃的だ)の骨と必ず故郷に戻る事を誓う。ワン・サンがたどる世界半周の旅、こんなに過酷で不幸な道行きもないだろうと思う。
「白い雌ライオン」でも顕著に表れていたが、マンケルには人種差別と強者が弱者に振るう暴力に対して非常に強い怒りがある。マンケルにとって書く事とはそんな父性に対する戦いなのだと思う。そのくらいの力がぎゅっと込められて一文字一文字刻印するように書いているのだろう。単に過去の過ちに対する糾弾にとどまらず、多を踏み台にして拡張していく傾向を見せる現代への警告も含んでいる。マンケルが着目するのは常に人、それも弱き人々であるから、特定の国をただ「良い」「悪い」と断罪する事はない。中国に対する複雑な想いも物語を通して読み取る事が出来る。
なんで主人公ビルギッタが裁判官なのかというと、刑事でないので自由に動く事が出来るというのは勿論だが、作中でもビルギッタが直接吐露しているが罪と罰、そして人を裁く事がいかに難しいかという事を提示するためだろうと思う。因果応報ではないが物語的にどうしても落とすべきところがあるところは納得できるし、読んだ人なら分かるだろうがその法則に従っていない罪もある訳で、こういったところもマンケルの正義感、そして未来へのまなざしが反映されているような気がする。

ミステリーと思って読むとかなり重厚で戸惑うかもしれない。すっきりしない、という感想を持つ方もいるようだ。一応ご注意ください。ヘニング・マンケル好きな人は文句無しだと思うので是非どうぞ。歴史を感じさせる重厚な物語が好きな人も是非。

Bad Brains/Bad Brains

アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.のハードコアパンクバンドの1stアルバム。
1982年にReachout International Recordsからリリースされた。私が買ったのはボーナストラックが追加されリマスターされた再発版。
Ramonesの曲名を冠したこのバンドは1977年に結成された。暴動の様なライブでワシントンD.C.のすべてのライブハウスから出演禁止を言い渡された「Banned In D.C.」(Band In D.C.とかけてる)のエピソードは有名。速度の速いハードコアとゆったりとしたレゲエを組み合わせたその独特の音楽性で持ってミクスチャー音楽の先駆者として名を馳せる。メンバーは全員黒人で当時のアメリカではきっとこれはすごい事だったのではなかろうか。
にわかの私でも鋭角的にジグザグを描く稲妻がホワイトハウスを直撃する黄色を基調とし、ラスタカラーで彩られたアートワークは知っていた。このたびBad Brainsの映画が公開されるという事で遅まきながら買ってみた次第。

ボーナストラック1曲を追加した全部で16曲を36分で突っ走る爆走ハードコア+レゲエ。
30年の月日が経った今リマスタリングを考慮してもその音は軽く、現代のハードコアのそれとは隔たりを感じるがその勢いは今聴いても凄まじい。1曲目の「Saillin' On」を聴いたらもう体を動かさずにはいられないだろう。スタスタ突っ走るドラム、音はソリッドでシンバルのクラッシュが非常に印象的。音数が多く印象的なフレーズを入れてくる主張の強いベース。弾き倒すような前のめりなギター。たしかに余計な装備を剥ぎ落とした速度のみを追求する危険な乗り物の様なストイックな格好良さがある。しかしよくよく聴いてみると、短い曲の中にも一筋縄でいかない展開、速度の変更、短いギターソロは良く練られていてキャッチー、まくしたてるボーカルもあってハチャメチャに聴こえるのだが、なぜかとてもポップ。どうもwikiによると元々フュージョンのコピーなどをやっていたらしくかなり技巧的には優れたバンドだったようだ。完全に意図された爆走という訳ではなかろうが、この勢いの裏側には努力の末に獲得された技術があるのだろう。
そんな確固たる演奏陣に引けを取らないのが、なかなかトラブルメイカーの様な印象のあるボーカリストH.R.。現在確立されているハードコアのボーカルの範疇には収まらない破天荒なもので、強面感はほぼ皆無。まくしたてる早口はいたずらっ子のような若さ、青さがある。フリーキーな歌唱法もあって非常に自由な感じ。良くも悪くも不安定であっちに行ったりこっちに行ったり。
そんなボーカルと演奏を聴いてみて思ったのは初期の、ADK盤のころのあぶらだこに似ている。勿論あぶらだこの結成は1983年でこのアルバムがでた後だから影響を受けたのはあぶらだこのほう。基本的にハードコアの速い演奏だが、妙にフックを入れた曲の構成。けいれん的な危うさがあるボーカル。そして激しい演奏の裏に見え隠れする奇妙ないたずら心。結構似ていると思う。(ちなみに映画のオフィシャルであぶらだこのひろしさんがコメントを寄せている。)
Bad Brainsには大きな特徴があってそれがレゲエの要素。ミクスチャーの走りといってもこの頃はハードコアスタイルとレゲエスタイルは曲によって明確に使い分けられている。ハードコアの曲間に完全にレゲエの曲が挟み込まれる。ぐっと速度は落ち、そして裏打ちするギターを始めとする楽器陣は音の数もすごく減る。居住まいを正した様なH.R.はゆったりとしかしソウルフルに伸びやかに歌い上げる。主張があって音楽がある。とても自然な事なのかもしれない。

Fugaziもそうだったけど歴史のお勉強ではなくて今聴いてもカッコいい。あの印象的なアートワークをモチーフにしたT-シャツが未だに愛されているのは単純に見た目がカッコいいからじゃなくて、Bad Brainsの音楽と主張が今でも非常に力を持っているからだと思う。ハードコアのルーツを探りたい人以外でも、あぶらだこ好きだ!という方は是非どうぞ。


Russian Circles/Guidance

アメリカ合衆国イリノイ州シカゴのポストメタルバンドの6枚目のアルバム。
2016年にSargent Houseからリリースされた。
3人組のインストバンドで結成は2004年。奇妙なバンド名はwikiによるとアイスホッケーの練習方法からとられたそうだ。ベーシストのBrian Cookは元Botch(!)で今はAron Turnerと一緒にSUMACもやっている。

私は一個前のアルバム「Memorial」をChelsea Wolfeが参加したのを切っ掛けに購入した。彼らのアルバムはこれで2枚目。そんな私のこのバンドの印象としては”無愛想”という感じ。ロックにしろメタルにしろ頭に”ポスト”と付けるとちょっと小難しくなると思う。この界隈では完全にインスト、もしくはボーカルパートは少なくなる傾向にあるが、一番分かりやすく感情移入しやすい要素である人の声が削られるのでどうしても抽象的になりがち。緻密な計算のように精緻に音を一個ずつ積み重ねて作られるかの様な楽曲は良くも悪くもアート的な表現になってきがち。使用される楽器もバンドアンサンブルからどんどん増えていき曲の尺もながーくなっていくと。これらはいまや一個の様式美として(つまりポスト〜というジャンルとして)成立している事の証左であり、これが悪い事は勿論ない訳です。(各人が色んなバンドのアウトプットを体験して善し悪しの判断をすれば良いのです。)そんなジャンルにカテゴライズされながらも結構それらと距離をとって自分たちなりにやっているのがこのRussian Circlesというバンド、というイメージ。
今回にしても表面的なアートワークにしても意味は掴みにくいもののはっきりしているし、アルバムタイトルと各曲名も単語一つのみで表現されているという無骨っぷり。曲にしても全部で7曲で41分弱と。このジャンルでは明らかにコンパクトにまとめられているのではなかろうか。だいたいまあ5分か6分には収められている。曲の方も”ポスト”の代名詞というか存在理由といっても言い芸術的な部分を徹底的に削ぎ落とした内容。勿論全編これクライマックスという、実はただ単調な楽曲でも全くなく、ポストの醍醐味である楽器時んのみが導きだせる抽象的だがそれゆえの陽炎の様な美を追求している訳なのだが、とにかくもうソリッドかつ必要最低限の潔さ。各メンバーの一音一音とっても非常にクリアかつ明快。使用されている楽器にしてもバンドアンサンブルにシンセを追加したくらい。(だと思う。)ゴリゴリ迫るベースをちょっと聴いただけだとあの朦朧としたポスト感の幻想などがらがらと音をたてて瓦解していくようだが、ちょっと待ってほしい。かの澁澤龍彦さんがこのようなことを言ったそうだ。曰く「幻想文学といって曖昧に書いてくるやつが沢山いるが文体はあくまでも明快でなくてはならない」(細部色々違うと思います。)なるほどこのバンドはこの哲学を地でいく様なスタイルで、使われている音は非常に無骨だが、それらが作り出す曲のダイナミクスはどうだ。必要最低限の反復と多彩な展開でもって圧倒的な”劇的”を作り出している。眼前に光り輝く別世界の入り口が見える、これはまさにポスト音楽の神髄ではないか。素材と作りに拘り、釘などを一切使わないで絶妙な芸術品と評して間違いない家をつくる宮大工のようだ。そうして作られた社には神が宿るのだとしたらこれが幻想でなくて何なのだ。幻想と信仰には確固たる土台が必要なのかもしれない。

ぼんやりかつ冗長がポスト感だと思っているやつの顔に轟音ぶつけてくるRussian Cirlces。これは壮快。是非どうぞ。個人的にはラストの「Lisboa」にただただ圧倒されるばかり。オススメです。

2016年8月21日日曜日

ハーラン・エリスン/死の鳥

アメリカの作家、ファンタジストによる短編集。
ハーラン・エリスンはエヴァンゲリオンの最終話のタイトルの元ネタになった「世界の中心で愛を叫んだけもの」が有名だろうか。これは短編集で私は以前に楽しく読んだ。エリスンはSF作家ととしてでなく優れた脚本家としても活躍し、かの有名な(私は見た事がないんだけど)「アウターリミッツ」も手がけた。
とにかく作品に劣らず本人も話題性に富んだ人らしく、色々な伝説があるらしい。じつはまとまった本として奔放で発売されているのは前述の一冊だけのようだ。ようやっと2冊目が刊行される事になり、嬉しい限り。本書は日本独自の短編集との事。

別のアンソロジーで読んだ事もある『「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった』から始まる全10個の短篇が収録されている。ちなみにこの短篇は是非是非辛い毎日を送っている社会人の方に読んでいただきたい。自分の時間を生きようぜ。
SFにとどまらない豊かな発想力で持って自らを「ファンタジスト」と称するエリスンだが、この短編集でもSFにとどまらない作品を楽しむ事が出来る。本人同様内に秘めた情熱が隠し様もなくきらきらと煌めくような力の強いものから、一点徹底的に抑制された文体で冷静に語られる物語もある。
何といっても過激な描写と胸の悪くなる様な、冒涜的といっても良いくらいの挑戦的かつ露悪的なモチーフが特徴的。意志を持って人類を一掃し、荒廃した地球を支配するコンピュータ(後書きによるとエリスンは「ターミネーター」をアイディアの剽窃のかどで訴えているそうだ。)、時空を超えて未来人に奉仕させられる中世のあの殺人鬼、大いなる主に対抗する蛇、殺人を目撃しながら通報しない現代人、タブーをものともしない奔放な想像六が様々な設定屋がジェッットに結実している。それではエリスンの書くものは熱狂に浮かされた表層的な物語なのかというと、それは決定的に違う。前述の『「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった』は明確に時間に支配される現代文明への批判であり、搾取される弱きものたちへの暖かいエールである事は間違いないし、「鞭打たれた犬たちのうめき」では現代と買いに生きる人々の抱える偉大な虚無感(誰もが持っている共通認識のはずなのにそれを持ってここが繋がる事はないのだから面白い)を架空の神への信仰として表現している。一昔前お手製の異形の神たちが重篤な犯罪の言い訳に使用される事がなかっただろうか???勿論エリスンはそんな一昔よりさらに前この話を書いている。大人になる中で失うはずの”よきもの”、幸運か神のいたずらでそれをなくしていない事に気づいた若く心優しい男が、目先の利益からそれを本当に失ってしまう”苦い”物語。(「ジェフティは5つ」)などなどエリスンの物語はその奇抜な設定と過激なテーマ、文体でもって誤解される事も多いだろうが、その骨子は非常にしっかりと人間とその性質、その毎日の生活にフォーカスが合っている。だから当然荒唐無稽の物語以上の説得力がある。
個人的に気に入ったのは凄惨な殺人〜解体の描写が凄まじい殺人エンタメ(読んだ人は分かってくれるはず)「世界の縁にたつ都市をさまよう者」、それから表題作でもある物語とは全く別個と思われるエピソードや設問がコラージュされたように挿入される前衛的な雰囲気の「死の鳥」、エリスンが書くのに2年以上費やしたという「北緯38度54分、西経77度0分13秒 ランゲルハンス島沖を漂流中」。
とくに「ランゲルハンス島〜」は意味が全然分かっていないのだけど(相当模糊とした物語なのだが恐らく後書きにあるように一つのはっきりとした意味があるようだ)、どうも自分の魂を探して完全なる死を希求する男の物語の様な気がしてならない。現実に立脚しながらも橋は死に幻想世界に片足突っ込んだ様な雰囲気がたまらなく、出てくるアイテムのそれぞれに何か曰くいいがたい意味がある様な気がしてならない。

一言でいうと最高な短編集、なのでエリスンのみ訳の作品をどんどん読むマシーンと化したいところ。色んなジャンルを読むのが好きだけど、SFというのはやっぱり想像力の自分の限界をぱっと飛び越えてとんでもない景色を文字を通して眼前に現出させてくれるのでこれを読むのは無上の喜びと言って良い。やっぱりSFはいいな〜と思った。滅茶面白いので是非どうぞ。非常にオススメ。

Fugazi/End Hits

アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.のハードコアバンドの5枚目のアルバム。
2016年にDischord Recordsからリリースされた。
「DischordがBandcampに対応した!」と話題になっていたので前々から気になっていたバンドの音源を買ってみる事に。結構伝説的なバンドなので何となく構えてしまう。どのアルバムを買うか迷ったのだけど、なんとなくバンドキャリアで言うと後半のアルバムを買う事にした。Fugaziは1987年に結成されたバンド。中心になったのはIan MacKayeという人物でこの人はハードコア界では知らない人はいないのではなかろうか。Minor Threatの元メンバーで(恥ずかしながら聴いた事ないです。)、酒飲まない、タバコすわない、愛のないセックスはしない(間違ってたらすみません)という厳格なスローガンを掲げるストレート・エッジ思想の提唱者。前述のMinor Threat解散後結成され、物販を行わない、モッシュを禁止などハードコアのみならずアンダーグラウンド音楽業界としてはかなり異色のスタイルで持った活動したバンド。(ここら辺のエピソードが興味深いので上手くまとめた本などのメディアがあったら教えていただきたいところです。)
よくよく考えてみると私は煙草は吸わないし、お酒も(好きだけど弱いので)あまり飲まない、セックスは(愛の有無にかかわらずすごくしたいのだが)全然出来ないので、ある意味ストレート・エッジである可能性があるのでこの機会に聴いてみた。

私は軽薄な音楽消費者なのでハードコアにしてもパワーバイオレンス!クラスト!など完全に流行の最先端の尻馬に乗っかるタイプ。ルーツをほってみようという熱心なファンではないので、(ハードコアに限らないけど)伝説的なバンドであっても聴いてこなかった。なんとなくFugaziというと荒々しいストレートなハードコアだと思っていたから、再生した瞬間かなり驚いた。別のバンドの音源なのかとおもったくらい。
ハードコア(音楽)というとストレートかつシンプル、直情的でがなり立てるボーカルに代表されるその音楽性はまずもって過激、という認識なのだけど、このFugaziはのっけから(1曲目「Break」)複雑なリズム、ディストーションのむしろあまりかかっていないクリーンな凝ったリフを奏でるギター、ジャズのような技巧を見せるベースのアンサンブルがゆったりとした曲を演奏する。ゆったりとしながらも複雑さを感じる曲で、難解とはいわないし、メタルの様なかっちりとした装飾性に富んだ様式美はかんじられないのだが、なんとも一筋縄では行かない。少なくともハードコア然とした粗野な五月蝿さとは無縁だ。あっけにとられる2曲目「Place Position」ではボーカルが圧倒的な存在感を見せてくる。思っていたより高い声でちょっとビブラートがかかっているように不安定に震えるそれはちょっとJello Biafraに似てると思った。曲の方は相変わらず複雑怪奇にその枝葉をのばし、曲中に大胆なブレークを入れてくる。ハードコアの枠からは完全にはみ出しているぞと呆然としていると3曲目「Recap Modotti」が始まる。シンプルにビートを叩くドラムに、やはりリズムと渾然一体になりつつも良く動くベースが絡む、チリチリしたノイズからギターが入るがやはりそのトーンはクリアだ。ボーカルは何かを待っているかのように抑えたトーンで詩を読んでいく。なにかあるという焦燥をはらむ緊張感がたまらない。オフビートと言っても良いが中盤以降徐々にテンションを挙げてくる。緊張感の中にも伸びやかさが横溢している事に気がつく。私はこの3曲目でやっとなんとなく、このFugaziというバンドがおぼろげながらも見えて来た様な気がした。とにかくこの3曲は自分の不勉強もあって衝撃的だった。し、とても面白かった。
Fugaziの音楽性はポストハードコアに分類されるらしい。また初期の作品は大分ハードコアらしいアプローチで作成されたとの事。その後ハードコアにとどまらない音楽性を模索し、それが別のジャンルという事で結実したのがこのアルバム、ということだ。
全体的に速度を落とした気怠い雰囲気の中に、フリーキーで反復的な音楽が伸びやかにつめられている。隙間が結構空いているので油断しがちだが、前述の「Recap Modotti」のように実は緊張感が満ち満ちている。いわばFugaziの間合いであって、その思想もあって殺気というのはあれだろうが、この空間にはいると完全に異界に持っていかれる。

「実は未だ…」という人は是非どうぞ。実はあまり構えなくてもただ聴いてみる、という感じでも良いのではなかろうか。結構ビックリすると思います。