2013年4月6日土曜日

Panopticon/Kentucky


アメリカのアトモスフェリックブラックメタルの2012年発表4thアルバム。
Handmade Birds Recordsから。
実はこのアルバム同じレーベルから出たLP盤を持っていたのだけど、あまりにも内容がいいもんでCD版も買ってしまった次第。


PanopticonはA.Lunnなる人物によるブラックメタルバンドで、アーティスト写真などにも長髪の男性の後ろ姿が写っていたりするのでてっきり一人プロジェクトだと思っていたのだが、Encyclopaedia Metallumによるとなんと2人のAustin Lunnからなるバンドとのこと。
参考:http://www.metal-archives.com/bands/Panopticon

さてPanopticonは一個前の3rdアルバム「Social Disservices」と同時期に発売されたWheels within Wheelsとのスプリットを持っているのだけど、今回のこのアルバムを聴いたときは驚いた。明るいとは言わないけどかなりアトモスフェリックになっていて、Wolves in the Throne Roomまでとはいわないけれど、いわゆるカスカディアンな雰囲気に通じるものがある。
何より特徴的なのが楽曲に使われている楽器群で、通常のメタルバンドで使用される、ギターやベースドラム、キーボードなどに加えて、バンジョー、マンドリンなどのこの分野ではあまり使用されない楽器が使われている。結果的にフォーキーな温かさが楽曲に付与されている。
 アルバムの構成も変わっていて、全8曲のうちいくつかは伝統的な民謡とでもいうのか、のどかでかつ力強いフォークソングで、さらにそのなかのいくつかは作曲者はA.Lunnではない。ブックレットによると20年代や30年代に作られたものだそうだ。
でその他の曲は紛うことなきブラックメタル然とした比較的長い尺の曲群なのだが、 こちらにも前述のバンジョーなどが使われている。その使われ方が絶妙でまったく自然に楽曲に一体化しており、こんなのありか!と叫びたいくらい違和感なし。
曲自体の構成が凝っていて、どれも一筋縄ではいかない。怒りに満ちたブラックメタルとは全く異なる。もちろんボーカルは叫び声だし、ギターは重々しい、疾走するするパートはたびたびあるけど、同じ曲でもまったく様相が違うパートに展開が変わる。そのうつろい様ったらまったく自然で一曲がまるでめぐる四季のようです。激しいパート、優しいパート、陽気(!)なパートが混然一体に合わせってドラマティックな楽曲にまとめられている。この感動はどうしたことだ。通常の楽曲というのは喜怒哀楽のどれかにフィーチャーされていて、わかりやすく乗りやすい。ところがこのアルバムの楽曲は1曲に喜怒哀楽のすべてがぶち込まれているようだ。一言で言い表すことのできない色々な感情が音に乗って波のように押し寄せてくるのだ。なんだか泣きそうだ。なぜなら人生がそうだからです。思うに喜怒哀楽それぞれ一つは人生のとても細かい一部分だけど、人生というスパンで日々をとらえるともっと全部が混ざったなんだか簡単には表現できないものにはならないだろうか。たまにその何とも言えない感情の塊をうまーく曲にしてくれるバンドがある。(音楽性は全然違うけどあぶらだことか。)これもその類のアルバムだと思う。

さてその不思議さも、ブックレットやアートワークをみるとちょっとその一端がうかがえるようです。アートワークは木々生い茂ったもりでそこに重なるようにぼんやりとヘルメットをかぶった男とその息子らしき映像が見える。恐らく彼らはケンタッキー州(炭鉱あるそうです)の炭鉱で働く労働者とその息子でしょう。楽曲にも「Come All Y Coal Miners」 というものがある。かれらの生活のつらさや楽しさについての思いが楽曲の源泉にあるのかもしれない。
またブックレットにはこのアルバムが生まれたいきさつが書いてあって、私のつたない翻訳力によると、どうもケンタッキー州の美しい森をハイキングした際に多大なインスピレーションを得たA.Lunnは自宅に帰ってすぐに作曲を始めたそうです。
その名の通り真っ黒いブラックメタルというジャンルで森や自然の美しさが、その原動力になっている(前述のWolves in the Throne Roomもそういったアティチュードがありますね。)のは結構特異なことで、 それがこのかなり一風変わったブラックメタルができた要因の一つになっているような気がする。
とにかくこれは凄まじいアルバムであることに間違いありませんので、この記事を見てしまった皆様はとりあえず聞いてみることをお勧めするよ、私は。

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