2014年7月6日日曜日

ジェイムズ・エルロイ/ホワイト・ジャズ

アメリカの作家による警察小説、ノワール。
1992年に発表され、1996年に日本で単行本になり、1999年に文庫化。私が買ったのは2014年に再発された新装版。
とにかく「血まみれの月」を読んで圧倒されて、次の次のという訳で買ったのが今作。
これは実は「暗黒のLA四部作」と名付けられたシリーズの最終作なのだ。当然私は始めの三冊を読んだことが無いのだが、第一作の「ブラック・ダリア」をのぞく他の二冊は現在絶版状態でかえやしない(「ブラックダリア」はこれから読みます。)ので、再発された今作から手に取った次第。解説でも順繰り読んでください、と書いてあるのにそもそも売ってねーじゃねえか。なんとかしてくださいよ、本当に。

1958年、LAPD(ロサンジェルス市警)に勤めるデイヴィット・クライン警部補は風紀班に籍を置く弁護士資格を持つインテリ警官だが、その実はマフィアとつながり殺し屋を請け負い金を稼ぐ悪徳警官。ある日LAPDと繋がりのある麻薬ディーラーの元締めの一家が襲撃され、犬が目をつぶされて殺され、室内が酷く荒らされた。その事件の担当になったクラインは警察上層部と連邦、マフィア、大富豪を巻き込んだ大きな陰謀に巻き込まれていく。そこは裏切りと権謀術数、殺人が渦巻く暗黒の世界だった…

「血まみれの月」の主人公も大いに屈折した警察官だったが、今作のクライン警部補も実の妹とただならぬ関係にある見事に屈折した刑事である。しかしエルロイは最早そんなレベルじゃない、とばかりにクラインの屈折が何でもなく見える様な暗黒の世界を書き出した。この小説の主人公はどうしようもない暗黒の世界で、それは権力を持った(またはもとうとする)汚い大人達の嫌らしい欲望で作られたもので、当然多くの人多くの事象が絡みすぎて誰かの思惑でどうこうなる状態をとっくに超えたカオスになっている。クラインはそのカオスのほぼ中心に巻き込まれた狂言回しにすぎないとも言える。
ビートたけしさんの映画で「アウトレイジ」というものがあったが、あれのキャッチコピーが「全員悪人」だったが、今作も悪人しか出てこない。「アウトレイジ」で悪人の大半はヤクザだったが、今作では悪人の半分ちょっとは警察官だからさらに始末が悪い。
だいたいあらすじで書いたが「LAPDと繋がりのある麻薬ディーラーの元締め」が前提のように出てくる訳だから、警察官全員が真っ黒な訳だ。汚職癒着どころじゃない、人殺し、麻薬売買、強盗、なんでもやる。警察官なのか?犯罪者じゃないのか?という批判も最もだが、彼らは警察官の犯罪者なのだ。一番たちが悪い。
面白いのは全員金に取り憑かれているくせに、そこまで金を使う描写がない。熱狂である。彼らは熱に浮かされたように人を騙し、殺し、金を求めるくせに、何かその金でどうこうっていうのが抜けている。まるで子供のように蒐集それ自体に価値がある、ゲームのスコアのように金と権力を求める。全員が当事者で汗を流している。大物でもふんぞり返っている訳ではない。ばんばん死ぬし、殺されるし、全員が異常にギラギラしている。殺し合いといっても結果みたいなもので、根底にあるのは欲望であってそれが非常に読む人をげんなりさせるのである。

解説によるとあまりに長くなってしまった小説を削るという意図があり、この小説はかなり独特の文体で書かれている。まず文の装飾が可能な限り削ぎ落とされている。平明というよりは最早素っ気ないレベルで分かりやすいとは言えない。さらに主人公クラインの嗜好の流れがそのまま紙に書かれている。分かりにくいのだが、嗜好の流れが断片的な言葉と、句読点、=/-などの記号が多用されている。クラインが混乱すればそれがそのまま混乱した文章で吐き出される訳だから、読み手としては溜まったものじゃない。
おまけに始めの人物紹介が見開きで2ページどっしり構えてくる。それが文中ではあだ名や略称で出てくる訳だから、誰が誰で、どの陣営に身を置いているのかが分からない。
はっきり言って読みにくいのだが、中盤にさしかかるとこれが癖になっている訳で、本を読んだ後は自分の思考がクライン流に頭を流れて、これはもうすっかりやられている訳である。面白いったら無い。

最近読んでいるアメリカの小説ではもの凄い暴力を書くくせに、読んだ後これはこれこれを書いた話です、と説明できない話が多い。勧善懲悪でもない、無常観というのも少し違う。思うのはそういった意味を特に物語に対して付与することをしなくても良いのではということだ。各々それは出来るだろうが、ただただ呆然とする様な圧倒的な読後感が面白い。混乱した頭でなんとか物語に筋道をつけようとする試みも空しいと言えば空しいものだが、面白みがある。
ひょっとしたら厭世観と暴力の裏にある(もしくはない)圧倒的な曲間を書こうとしているのかもしれないが、そんなのは意見でどうでも良いかもしれない。
とにかく読んだ方が良い、というのだけは言える。これは出来事を書いた小説であることは間違いないと思う。とにかくその凄まじさに圧倒されるが、よく読んでみると形はしっかり警察小説の態を取っていることが分かると思う。
という訳でもの凄いの読んでしまったな〜と思う。とにかく他のエルロイの本全部再発してくださいよ。本当に。

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