2015年12月31日木曜日

2015ベスト音楽

The Armed/Untitled
やっけっぱちハードコア。怒の感情をストレートにバンドサウンドに乗っけた。簡単に見えて多分今年はこのバンドが一番ピュアに清々しく喧しくここを描ききっていた印象。2曲目のサビ?の歌詞は本当カッコいい。

Birushanah/魔境
大阪の和トライバルスラッジ。メンバーチェンジ後の初音源。歌とメロディに特化することで曲が儀式に昇華。喜怒哀楽すべて飲み込んだ壮大な唄で聴いたものを魔境に。

Cult Leader/Lightless Walk
プログレッシブクラスト待望のフル。徹底的な荒廃を描き出し、呆然と立ち尽くしていると妙に暖かい感情がわいてくる。個人的にはついにGazaの向こう側に到達。

Full of Hell&Merzbow
地獄が満杯で溢れ出しているのにノイズの悪魔と手を組んだ明らかに「なにもそこまで…」という演出過剰なノイズハードコアの一枚。4曲目は神懸かりの出来。

Kendrick Lammar/To Pimp a Butterfly
1曲目を聴いたとたんLammar劇場が。豪華絢爛ヒップホップで次から次にとにかく楽しませてくれる。ところがアートワークも含めて辛辣なメッセージ(1曲目とか本当にすごい)が込められていて緻密さにあぜんとするばかり。

Leviathan/Scar Sighted
一人ブラックメタラーの復帰2作目。どうしてこんなになるまでほっといたんだ!という色々悪化の一途をたどる悪趣味さ。とうに忘れられた病室でじっくり熟成されたような底意地の悪い黒さ。Viceの動画にも登場してこちらも大変おもしろかった。

OMSB/Think Good
日本は相模原のメガトンBボーイの2nd。とにかくポジティブかつあっつい一枚。徐々に盛り上がってくるタイトル曲はヒップホップ知らない私でも聴くたびに胸が熱くなる。2015年一番まっすぐかも。

Redsheer/Eternity
不惑を超えたのにどす黒い感情に突き動かされ続ける国産ハードコア。焦燥、後悔、不穏な感情を全部ごた混ぜにし、オルタナティブな楽曲に無理矢理詰め込んだ。危うげという言葉がぴったりでばっちりハマった。





次点で
Gore Tech/Futurphobia
クソダブステップという感じで(失礼)歪んだぶっといビートがモッシュコアの様な下品さを持った電子音楽。ノイジーなイントロで幕を開ける7曲目はアホほど聴いた。

Not on Tour/Bad Habits LP
イスラエルの女性ボーカルパンク/メロディックハードコア。1曲目が最高のキラーチューンで元気になりたい時は良く聴いた。あっという間に終わってしまってなんか春って感じ。





旧譜で良く聴いたのが、
Grief/Turbulent Times
解散済みのトーチャースラッジ。ノイズにまみれささくれだった不快な低音を聴いていると怒りにいきり立っていたはずの脳と感情が溶けてくるような感覚になる。特に5曲目は最高。

Mrtyu!/Wicthfucker
ハーシュノイズをここまで奇麗に聴きやすくできるものなのかと感動。タイトル曲は屈指の美しさで別に奇を衒っている訳でも何でもなく不思議に切なくなんだか浄化される気分。





見返してみると国産が多いかな?ネットで日本の音楽がつまらなくなったとか言っている人を見るけど一回も分かった事が無い。
国内外通じて今年も沢山の素晴らしい音楽に出会えました。作り手の皆様、レーベルの皆様、ディストロの皆様ありがとうございました。それからSNSなどでオススメを共有してくれる皆様にも感謝。もうほぼ人のオススメ聴いているだけになってしまった様な気もする。来年も引き続きだが、ライブにはもっと沢山行きたいと思っております。
今年もつたないブログにおつきあいいただきありがとうございます。
良いお年を。

JK FLESH/Nothing is Free

イギリスのミュージシャンJustin K Broadrickによる電子音楽プロジェクトのEP。
2015年にAvalanche Recordingsからリリースされた。
「タダより高い物はない」というタイトルでBandcampでNYPで公開されている。
なんだかおっかないので幾らか払って購入。(基本NYPは払っていくスタイル)EPながらも9曲も入っている。(ので感想かいてみる)
しかしJKでFLESHときたもんだ。フヒヒさすが先生分かってらっしゃる!というクソみたいなネタを挟みつつ(盗んだ制服に身を包みながら)、このプロジェクトはHydra HeadからリリースされたPurientとのスプリットしか持っていない。本当は一個前に「Posthuman」というアルバムをリリースしているがこちらは未聴。

インダストリアルなノイズにまみれた硬質なダブというのが第一印象。さすがにもう元Napalm Deathという形容詞も微妙だが、メタル/ハードコアの轟音からjesuの美シューゲイザーやら、The Blood of Herosのダブヒップホップ、Grey Machineのノイズメタルなど五月蝿いという共通項でもって多彩なジャンルで八面六臂の活躍を見せる先生。そのノイズ才能を活かしたのがこのJK FLESH。御馴染みの地鳴りの様なノイズもキッチリ収録されていてニヤリ。(2曲目の冒頭など)
容赦のないインダストリアルな音にうおおと我が身をのけぞらせる事請け合いなのだが、この音源第一印象より大分聴きやすいから驚き。というのもリズムの概念が楽曲にかなりキッチリ組み込まれているので大変聴きやすい。分かりやすいメロディがある訳ではないので一般に言うところの聴きやすい殻は大分隔たっているものの、このバンドに興味を持たれている方ならすんなりと受け入れられると思う。
ぶわんぶわん振動しているようなダブ特有のキックを軸にブレイクビート風の硬質なマシンビートを合わせて来たりとかなり手の込んだ事をやっている。一方うわものは非常にシンプルで不穏なインダストリアルノイズが不穏さを煽る。だいたいがミニマルな展開だが、間とたまに展開を見せることもあって、そこらへんも聴きやすさに一役買っている。そんな構成だから基本的には無骨なビートが主役のプロジェクトだと思う。同じくNapalm Death繋がりのMick HarrisのScornというプロジェクトに相通じるところがあると思った。ビート主体だが、寡黙で流行とは無縁なところは特にそうだ。ただしこちらの方がダンサブルというかもう少し開けている感じだろうか。(特に4曲目なんかはビートが饒舌だからかなりカッコいい。踊れるダブ。)

一見無骨ながらもバランスがとれた良質なダブ。気になっているなら聴いてしまうのが良しと思います。

2015年12月30日水曜日

総武線バイオレンス2015 @Sunrize 12/29

振り返るまでもなく今年はほとんどライブに行かなかった。元々そんなにいく方でもないけどやっぱりいくつか気になるのはある訳で、なかなか足を運ぶことが出来ず、最悪前売りチケットを買ったのに当日いけなくなったという事も何回かあった。ひとえに自分の準備不足の所為としかいいようがなく恥ずかしい限り。
そんなうっぷんを晴らすべく総武線バイオレンスという過激な名称のイベントに足を運んだ。BLOODBATH RECORDS、CAPTURED RECORDS、TILL YOUR DEATH RECORDSという日本の激音レーベルによる共同企画でそれぞれが推すバンドを招聘する、という企画で年末の恒例となっているようだ。参加するバンド数は多くて、今年は全部で10ものバンドが演奏するというまさにお祭り。私は初参戦。というのも音源がとにかく素晴らしいRedsheerをちゃんと見たいというのと、活動休止中だったブルデス/ゴアグラインドバンドAbort Masticationが復活・参戦するという事でこれは!と思った訳です。
舞台となるのはお相撲さんの町両国。Sunrizeというライブハウスは始めていくのだけど、HPに丁寧に道順を解説した(ギチさんという方のとても面白い)動画があがっており方向音痴な私でも難なく到着できた。これとてもありがたい。(比較的駅から近い方だけど私なら余裕で迷うからね)
バンド数も多いので開演は15時から。

すこし遅れて会場に着くと一番手THE幻覚NEONSが演奏を始めていた。フロアにはすでに結構人が入ってました。女性ボーカルのグラマラスな(男の人も御化粧していて派手な見た目でかっこ良かった。)ロックンロールという感じ。当たり前なんだけど生演奏自体夏ぶりくらいなのでおおこれは気持ちよいなと思って地味にテンションあがりましたね。ハスキーなボーカルがかっこ良くていかにもロックな感じだった。折角だから始めから見れば良かった。

2番手はAbort Mastication。
私はこのバンド大好きで未だに「Orgs」は良く聴いている。活動休止期間も大分長いが、メンバーはCohol、Butcher ABC、Ozigiriで活躍していて、満を持してという感じで活動再開で嬉しい限り。お目当ての一つでしたので気持ち的にもあがる。音の方はというと「Orgs」中心のセットで間に新曲を混ぜこんだもの。特に「Orgs」の楽曲は短い中にもこれでもかというほど複雑なリフを詰め込んだものという印象があるのだけど、これを精緻な正確性で持って再現していて驚いた。あとボーカルも高中低の声の使い分けがものすごい。音源通りというとあれなのだが、このバンドの場合はメタルの正確性が持ち味だと思うので、それを大音量でやられたら最高以外の何者でもないわ。Coholでも叩くきょうすけさんのドラムはCoholのそれより速い!この手のバンドの持ち味でもある抜けの良いスネアの乱打が本当気持ちよい。「スコココココ」ってやつね。もっと長いライブが見たいな。このライブで活動は終わらず春には音源をリリースするようで嬉しい限り。

3番手はweepray。
主にライブレポで頻繁にその名前を目にするから非常に楽しみでした。メンバー全員黒い衣装に照明は角度を付けた白色のもののみを使う(照明は終始当て方が同じ)という、ステージングにもこだわりを見せるバンド。音の方はというと分厚い轟音とアルペジオの単音を組み合わせた、これまたこだわりと美学があるもの。攻撃性と儚い美しさを両立させたもので、(恐らく)日本語歌詞と良く合う。ボーカルは絶叫頻度高めでたまにクリーン。ポスト感はあるのだけど、ひたすら美しい、難解であるというよりもっとこう焦燥めいた余裕の無い感じがあってそれが緊張感と危うさを生み出している。そういうところ、非常にすきです。堂々たるステージでしたが何とまだ正式な音源をリリースしていないそうだ。来年は!と言っていたので楽しみに待ちます。あとベースの人のベースの角度が地面に対して垂直に近づきがちだなと思いました。

4番手W.L.D.K.。
京都のはんなりスラッジ。Zenocideとのスプリット「Dirtbag Cartel」を持っているからまあろくな事にはならねえぞ、とワクワクしながら待っていたが果たして期待を裏切らないステージング。まずメンバー上背ある人多くて動きも粗野、やたらとBrujeriaのマーチ着ているし悪い予感しかしない。ドラムセットもなんだかシンバルとタムだかスネアがデカ過ぎ。始まってみれば執拗に反復するスラッジリフに低音でグワグワうめくボーカルとハーシュノイズをのせたもので、リフの徹底的なミニマルさとノイズの奔放さが良い対比になっていて凶悪としかいいようがない。ライブだとすべての音が何倍も増しにされていて酷い。客がステージ向いて一心に頭を振るという邪教の儀式状態に。楽しい。とにかく下品で分かりやすく(褒めてますよ)ライブだと最高でした。ドラムの人の叩き方が力一杯で超かっこ良かった。

5番手vimoksha。
名古屋のバンドなんだけどこちらは全く知らなかった。なんといっても全く知らないバンドを見れるのがこういうイベントの醍醐味ですよね。どうもDjentらしく、私は本当にこのジャンルが分からないので密かに楽しみにしていた。8弦ギター(ネックが超太い、良く弾けるものだなあと)2本に、大小和太鼓のセットを取り入れたバンド。その楽器の布陣もさることながら楽曲もプログレッシブかつクリーンボーカルを大胆に取り入れたもので、前のバンドからのあまりのギャップにビックリ。ギターの人はとにかく指板の上を指が動く動く、曲自体は複雑なのだけど非常にメロディアスなサビやフレーズを導入する事で滅茶苦茶聴きやすい。タッピングやギターソロなど普段耳にしないので新鮮だった。雰囲気が良いバンドで(「アットホームかよ!」と突っ込まれたりしてた。)、「バイオレンスという事で殺伐とした感じで」と言った後に「まあ次はしっとりとした曲なんですけども…」というくだりは非常に面白かった。癒し。音源は未リリースだそうだけどレーベルからでるコンピには入るよということでこちらも楽しみ。

6番手はRedsheer。
とにかく今年リリースした「Eternity」がヘビロテ中なのでこれはと思ったお目当てのもう一つ。一回本当5分くらいライブを見た事あるのでちゃんと見たかった。
で、これがとんでもなかった。どのバンドもすごかったけどRedsheerは頭二つくらい抜けていた印象。音だってW.L.D.K.に比べれば大人しいし、展開だってAbortやvimokshaに比べれば複雑でない。しかしステージングは神懸かり、私は棒立ちになりながら騒然となったものだ。曲が終わればオノザトさんの荒い息がマイクを通して聴こえてくるくらいの必死さ。3人ということで無駄を配したごまかしのきかない演奏は緊張感に満ちている。爆発寸前の危うさ。ボーカルと対比する様なギターの美しさ。音楽というのは波長であって、私はそこになにか自分のものを重ね合わせるように同調したと感じたのであった。それはなんというか切なさであった。孤独と焦燥といってもよいかも。それを強烈に感じた。音楽に対してエモーショナルであると称する事があるけど、Redsheerの音楽はまさにエモーショナルであった。金を払ってみてやるか、という気持ちなんか吹っ飛ぶというか(勿論自分ではそんな気持ちは無いと思っているんですけど。)、なんか抽象画を見ていて、見た事のある風景だなあと思っていたら自分の顔だったみたいな、そんなもう他人事でいられない感覚とでも例えるべきか。とにかく私はこのRedsheerに完全にやられてしまったのであった。ライブの面白さがちょっと分かった。オノザトさんは最後「老い先短いので死ぬ気でやります」とまさに鬼の形相で2016年の意気込みを語っていてこれはとんでもねえぞとなったが、やっぱり長生きしてくれーと思わずにはいられなかった。

という訳でバイオレンスすぎるイベントはまだまだ4バンドを残していてフリーザに相対したZ戦士の様な震えが駆け巡ったのだが、用事があってここで離脱。Zombie Ritualは見たかった…無念。約半分しか見れなかったけどそれでも寒さに凍える胸に灯がともる様なイベントでした。BLOODBATH RECORDS、CAPTURED RECORDS、TILL YOUR DEATH RECORDSの皆様、出演者の皆様ありがとうございました。
Sunrizeも世界のビールがあってすごく良い感じでした(私お酒あんまり飲めないんだけど)。転換中はMotorheadが流れていて涙。(マーチ着ている人も多かったです)
イベント言って思ったのはみんな楽しそうにおしゃべりしていて良いなと。私も来年はもう少しライブに行けるようにしようと思いました。


駅の構内に暴力は犯罪です!というポスターが貼ってあって面白かった。バイオレンス!

パオロ・バチガルピ/神の水

鳥山明さんの「ドラゴンボール」で世界中の猛者が腕比べをする天下一武道会にナムというキャラクターが出てくる。彼は強かったが亀仙人のオルターエゴであるジャッキー・チュンに敗退。故郷の水不足のためなんとしても賞金が欲しかった彼は涙を流すが、ここでは水はタダだよ、と亀仙人が諭してめでだしとなる。
「ドラゴンボール」はフィクションだ。日本では水は無料ではないが、例えば公園に行って蛇口をひねれば出てくる。自宅でもいっぱいいくらだ、とは頓着せずがぶがぶ飲む。節約しようとしているけど無駄にする事もしばしばだ。毎年四国の方では夏場の水不足があるが、なんて言ったって日本は水が豊富にあるし、何となく他人事である。しかしこの水が足りなくなったらどうだろう?始めは水の値段が上がるだろう。それでは追いつかなくなって取水制限がつく。水の取り合いが始まり、水のために人が死ぬようになる。馬鹿なと思うだろうが、よく考えてほしい。江戸以前の時代では旱魃で人が死んでいた。人は天に雨を降らせるように祈った。水が少なければ米が育たない。さらに水が減れば口を潤せず人は死ぬ。人間の体の6、7割は水である。勿論血液は水だ。現代と昔の違いは水の効率的な利用方法がある程度確立されたことだ。貯蓄できるように、再利用できるように、技術が発展した。(人間が賢くなった訳ではない。)今日日の日本では実感できないが人は水によっていかされているし、水は常にあるわけではない。この水が無くなったら?この小説はそんな世界を書いている。小説という体裁をとっているから特定の時空と人物に焦点を当てて描いている。今より少し先のおはなし、その未来は有り体に言って地獄に幾分近づいている。
舞台となるアメリカは既に崩壊寸前である。というのも各州が水を取り合って対立している。水利権だ。この聞き慣れない単語は面白い。川がある。そうすると水をほしがる人が殺到する訳だが、一体これは誰の水なのだ?基本は上流にいくほどその権利が高くなる。水源地が一番権利を持っている。というのも水が湧いて、それから流れているのだから。この水利権を取り合って正攻法、邪道でもって様々な人、団体が争いを続けている。弱い人ほど割を食う。水利権を失った州に住む人は難民となり、よその州に流れる。よその州は水の取り分を減らすわけにはいかないから、難民は容赦なく殺す。運良く越境できたものはシャワー一回のため体を売る。売るものが無い男は生きていけない。年を取った女もそうだ。クリア袋というものがある。恐らくビニールで出来た透明な袋だ(陽光を反射するそうだ)。これに排尿する。それから別の出口からそれを飲む。恐らく何らかの濾過機構が備わっている、ハズ…よほどの金持ちでない限り、みんなこうしている。水が無いと人は生きていけないから、金のために争っている贅沢な戦争はある程度根絶される。もっと地位の低い、卑しい原始的な争いが地表を覆い尽くしている。つまり生きるために奪い、殺す事だ。この小説は、世界がもう崩壊する、その直前を描いている。各自治体は機能している。ネットワークもある。世界では比較的ましな地域もある。水の利用効率を限界まで高めた集合住宅機構通称「アーコロジー」を代表とする良い技術の片鱗もある。いわばまだ余地がある世界を書いている。荒廃しきった世界を書けば悲惨だが、もう心構えをする必要がないからある種楽である。しかしバチガルピはあえて余地のある時代を描く事でその先の不幸を暗に書いている。性格は悪いが流石だと思う。これはディストピアだ。権力者が弱きものに圧政を敷くのは構図的に同じだが、洗脳するべき思想も見当たらないからずさんなものだ。醜い世界と言って良い。コップ一杯の水を皆で争っているのだから。
主人公のアンヘルは特権階級だ。ラスベガスを支配するやり手の女王の走狗である。そんな彼がアリゾナ州のフェニックスに密命を帯びて潜入するところから物語が始まる。フェニックスは砂漠に位置する町でまともな水利権は持っていない。アンヘルに言わせれば未来がない死に体の街だ。アンヘルを始め登場人物の目を通して、もうじき死ぬ町にいきる、いわば底辺の人間たちが描かれる。バチガルピが上手いのは舞台設定がしっかりしているのに、説明に終始する事無く、あくまでも個人レベルで作品を描く。見上げる様な視点で救いの無い未来を描く。それが読む人の胸を打つ。ラストにこの小説のすべてが凝集されていると思った。素晴らしい。バチガルピは後書きで述べている、曰く「この物語はフィクションだが、この未来は科学的知見に基づいている」。
科学小説でありながら、水そのものを作り出せない科学の弱点を書いているように思える。別に未来への警鐘であるぞ、と姿勢を正して読む事は無いと思うが、読んだ後には水の事に思いを馳せずにはいられないだろうとも。個人的にはほぼ最高の読書体験だった。

2015年12月28日月曜日

Shapednoise/Different Selves

イタリアはパレルモ出身、今はドイツのベルリンを中心に活動しているアーティストNino Pedoneによるノイズユニットの恐らく2ndアルバム。
2015年にType Recordsからリリースされた。
かのJustin K Broadrickが参加しているという事で興味を持ち買ってみた。アナログもあるらしいが私はデジタル形式で購入。

Ninoさんは若干20代ながらもレーベルを2つ立ち上げたり変名でリリースしたりと精力的に活動している人のようだ。2013年には来日経験もあるという。
ハーシュノイズを使ったハードな音楽を演奏しているが、テクノ的なアプローチによって聴きやすさを獲得しているというまさに私好みのスタイル。
その手法と言えばドラムとベースのリズムパターンを組み込む事でノイズがもたらすカオスに法則性を与える試みが一つと、さらにノイズ自体を切り刻むなどの処理を加えて制御しようという試み。さらにはともすると放っておくとどこまでも五月蝿くなろうとするノイズをうまくしぼる(音の数的にも、質的にも)ことで聴きやすさと面白さを、ノイズ自体の魅力を失う事無く獲得している。
例えば2曲目は歪みまくったキックを派手に導入することでダブ感のあるトラックを作り出し、そこに飛び交う妙に浮遊感のあるノイズを貼付ける事で、荒廃しきったSF的な音風景を現出させる事に成功している。妙に退廃的でロボットが人類を抹殺しきった後のような世紀末感がたまらん。
一方8分ある8曲目や続くラストを飾る9曲目なんかはリズムトラックは一切登場しないが、強力なハーシュノイズが刻一刻とその姿を変えていく。低音、中音、グリッチな高音を混ぜる事で多彩でありつつも、それぞれが非常に上手く音数がしぼられていてドローン的な側面が強い。ノイズの魅力の一つにはミニマルさとそれに相反するように形を変えていく不定形さがあると思うけど、そんなジャンルを非常に上手く深堀していると思う。
ノイズを軸にジャケットが表現する様な灰色の世界観を構築しているのだが、曲単位で結構バリエーションがあり聴いていて飽きない。
個人的にはノイズの使い方すごく上手くてかなり好きです。
まさに「整形されたノイズ」というユニット名にぴったりの音楽。変名も含めて他の音源が気になるところです。
インダストリアルなノイズにがつんとやられたい人は是非どうぞ。

2015年12月26日土曜日

Endzweck/Tender is the Night

日本は東京のハードコアバンドの8thアルバム。
2015年にメンバーが運営するCosmic Noteからリリースされた。
タイトルはフィッツジェラルドの同名の小説(邦題は「夜はやさし」)からとられた。
ハードコアというと私は激音を求めてカオティックハードコアを少し聴いたくらい。ピュアなハードコアといっても学生の時にかろうじてShai HuludやPoison the Wellをほんの少し聴いた程度。(これらのバンドがピュアなのかはわからないのだが。)その時にEndzweckというバンド名は知ったものの買うには至らなかった。
今回バンド8作目が6年ぶりにリリースされたタイミングで購入してみた。私が買ったのはCDフォーマット。

全10曲、まさに駆け抜ける20分38秒。
ほぼほぼ2分台の曲で中速以上の速度で突っ走る。非常にストレートな構成で、ざっくりしたイントロはメタリックさを感じさせるものの、ボーカルが入ればほぼほぼ弾き倒すように突き進んでいく。スラッジパートや変化球は一切なしの豪速球。ボーカルは叫びっぱなしで、クリーンパートは皆無。別に分かりやすいメロディがある訳でもないし、ポスト感のある尺の長いインストパートがある訳でもない。(タイトル曲はインストナンバーだが美しいが1分20秒で終わる。)ピアノやストリングスなど、バンドアンサンブル以外の楽器もなし。まさに徹頭徹尾ハードコアなのだが非常に抒情的である。
緊張感のある演奏(まるで真っ白い山肌が倒壊していく雪崩の様な)とテンションの高いボーカルがエモーショナルな空気を作り出しているのは間違いない。たまに入る(決してあざとくない)コーラスパートは胸が熱くなる。中音域で畳み掛けたり、コード感のある弾き方を披露するギターも一役買っているだろうけど、それらの要素を入れたからといってもすべてのバンドがこういう音楽を出せる訳ではないから面白い。
結成18年目だから青臭いというのは無いのだが、すれたベテランめいた達観したアイロニーだったりは皆無だ。常に外に向けて開けていく様なポジティブな音楽性という感じ。
全編英語の歌詞だが歌詞カードには読みやすいフォントですべて記載されている。やはりハードコアだなと思う。ハードコアというフォーマットで吐き出されたメッセージなのだ。

ちなみにオフィシャルサイトでかなり長めのインタビューが読めるのだが、これが大変面白い。結成18年という歴史のあるバンドで、各メンバーがどうやってバンドを続けているのかという事がかなり詳細に書いてあってとても面白かった。ボーカルの上杉さんはスタートアップでプログラマとして日に(きっと休日も働く事もあるのだろうと思う)最低12時間は働きながらもバンドを両立しているそうで、毎日会社と家を往復するだけでヒイヒイいっている私からすると大変な事である。
「働かされてるんじゃなくて、意思を持って働いている。それでも時間作りながらバンドやってるから、みんなもうちょっとバンドやったらいいのになって思う。」
すごいなと思った。本当働いていて思うのだが、精神論ではなくてやる意思のある人はどんな環境でもやるのだな〜。素直に尊敬してしまう。他にもお子さんが出来たメンバーのエピソードもあって地に足の着いたバンドだなと。いわば生活密着型のハードコアであって、だからこんなにも説得力があって沁みるのだなと。

勇気づけられる様な10曲でした。すごく好きです。五月蝿いのに優しい。超オススメ。

Med,Blu,Madlib/Bad Neighbor

アメリカのヒップホップグループによるアルバム。
2015年にBangYaHeadからリリースされた。
Med、Blu、Madlibという三者のコラボレーションアルバム。
Madlibは西海岸の長命なプロデューサーで私はこの人のみ名前だけ知っていた。MedはそんなMadlibの弟さんでMCとして活躍している。Bluはカリフォルニアのラッパーとの事。
正直全く知らなかった音源なのだが、Twitterでフォローさせていただいている人が褒めていたのでBandcampで購入。最近ハードコアだったり尖った音楽ばっかり利いていたから趣向が異なる音を聴きたかったのです。
3人のコラボレーションなのは間違いないのだが、3人以外にも多彩なゲストMC/シンガーが参加している模様。フィーチャリングがつかない曲は全15曲中3曲しか無い。残念ながら私はゲストも一人も分からなかったのだが。

音の方はというと所謂アンダーグラウンドヒップホップという事になると思う。
アンダーグラウンドというとその名の通り地下っぽい、つまり悪っぽくて煙ったいイメージを持ってしまうけど、ことホップホップに関してはそうではないようで。大学生の時にアングラヒップホップだよと紹介されたのが日本人トラックメイカーのnujabesだったのだが、多分オーバーグラウンドに対するアンダーグラウンドということで、私の耳にはジャズネタをサンプリングしたトラックはむしろ清々しいくらいに聴こえたものだ。
nujabesほどキラキラしている訳ではないけど、この音源も聴いてみればそんなルーツに敬意を払ったピュアなヒップホップに聴こえる。
例えばトラックのベースの部分、恐らくサンプリングしているんだろうけど特にドラムの音が格別で、バスドラのくぐもった感じや、とくにシンバルのクラッシュだったり、シャーーとなる叩き方だったりはもはや美学。
例えばRun the JewelsやDeath Gripsの隠そうともしないサイケな電子音楽をふんだんに使った新しいヒップホップなのだろうが、それらとは明らかに一線を画す。イントロやアウト路にSEだったりを効果的に使っているものの、他は驚くほどシンプルだ。アルバム単位で音の種類が豊富なので豪華に聴こえるのがさすが名うてのプロデューサー故だろう。
和食の一汁一菜を思わせるぶっといビートを構成するドラムとベース音にホーンやオールドスクールなシンセのリフを乗っけて、あとはボーカルがその腕を存分に振るうスタイルである。リリックに関しては残念ながら何を主張しているのかは分からないけど、全体的な雰囲気を通じて悪自慢なギャングスタな雰囲気はほぼほぼない。都会的な雰囲気というのか埃っぽい光の中に坐って眺める巨大な都市の様な趣がある。ただし完全に牙を抜かれたお洒落BGMかというとそんな事は無い。一見伸びやかな雰囲気のなかにもはっとするほどの緊張感が閉じ込められている。
個人的にはMF Doomが参加した7曲目が素晴らしい。ラップとトラックもさることながら終盤の贅沢にとられたピアノのソロが何とも余韻を残して純粋に曲として素晴らしい。メタルのようにぎゅっと詰まっている訳ではないが、音数が少ない分実は自由度が減っているというか、例えるならば五七五のルールで表現の限界に挑戦する俳句の様な美学を感じてしまう。

全くの門外漢ながらとても楽しめた。これはカッコいい。ヒップホップに詳しくない人も是非どうぞ。

2015年12月23日水曜日

アーシュラ・K・ル・グィン/風の十二方位

アメリカの女性作家による短編集。
ル・グィンといえば何と言っても「ゲド戦記」が有名かと思う。ジブリの手でもってアニメ映画化もされたし。私は中学生のとき長期休暇の課題図書になって読んだものです。その後大人になって第2作「こわれた腕輪」を読んだけどこれも面白かった。ゲド戦記シリーズは真の名前が絶対的な力を持つ世界「アースシー」を舞台にした硬派なファンタジーだけど、作者のル・グィンはSF作家でもあり、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞も受賞している実力者。私は有名な「闇の左手」を読んだ。これは両性具有の人たちの星で男性の大使が運命に翻弄されるという、硬派なSFであった。
といっても三冊しか読んでないからこの「風の十二方位」というタイトルがかっこ良い短編集を手に取った訳だ。ちなみにこのタイトルはA・E・ハウスマンという人の詩からとったもので、原典の抜粋が冒頭に書かれている。やはりとてもかっこいいぜ。作者自身がまえがきで書いているのだが、作家デビューしてからの10年で発表した短編をほぼ時系列順に並べたのがこの短編集。

収録されている物語はSF/ファンタジーにはっきりよっているものもある。例えば時空を超える魔法もでてくれば、科学が生み出した先進的なクローン人間たちも出てくるし、舞台は未来、現代、中世(風)と様々。ただ結構両者が混ざり合っているものが多い印象でそこら辺がおもしろい。一見登場人物の語り口を見ると魔法っぽいのだが、栄華を極めた未来文明が崩壊後の残留物では?と思わせたり。
思うに作者には書きたいテーマがあって(これを読み手が、というか私が完全に理解できているか怪しいのが悲しいところだ)、それを書くために舞台装置となる未来的な技術だったり、魔法だったりをかき分けているように思えた。(ただ作者も書いているけど思索的であることを良い事だと考えているから科学技術に対する愛情の様なものがあるなとも感じた。)

概ね思索的で「闇の左手」を思わせる様な灰色い荒涼としたイメージの小説群が多い。人間の感情を書いているが、答えの無い暗黒に沈み込む様な内省的なベールを帯びていて、暗いといえば暗いのだが、表紙になっている(良い表紙だよね、調べたら前は違ったものだったようだ)「セリムの首飾り」「地底の星」のように暗闇で豊かに輝く色彩があってそれが目を引く。ただ輝きが降伏を象徴している訳ではないからどれもただ楽しいという小説は無い。
例えば「オメラスから歩み去る人々」はテーマははっきりしているけど、そこから読んだ人が何を読み取るのかというのは結構面白いのではと思った。因果関係を求めがちな人間の思考形態の一種病的な発露とも見れるなと思った。どれも読んで面白かったというよりは、その後からこっちで考える時間が始まる様な感じで、そういった意味では突き放した感もあれば、ヘヴィな小説群であった。ただ基本的に拡張、変容しているものの普遍的な感情を出発点に(もしくは中心に)書かれているから読みにくいという感じは全くなかった。
ル・グィンはフェミニズムの作家と言われる事も多いらしいけど、無知な私はそこら辺をあまり意識せずに読み物として楽しめた。奥付を見ると初版が1980年で私が持っているのは第16版だったから本邦でも長く人を引き続けている短編集なのだと思う。興味がある人はぜひどうぞ。私は作者の別の本も読んでみるつもり。

2015年12月20日日曜日

This Gift is a Curse/All Hail the Swinelord

スウェーデンはストックホルムのハードコアバンドの2ndアルバム。
2015年にSeason of MIstからリリースされた。
「この贈り物は呪いです」というバンド名が印象的なものの聴いて事無かったが、とあるブログでのレビューが気になりBandcampで購入した。
自らの音楽を「重たいタール」と称するが言い得て妙であり、重厚かつねっとりと悪意の粘性に富んでいる。「豚王万歳」というアルバムタイトルも皮肉が利いて薄ら笑いのシニカルさが感じ取れる。

その音楽性はハードコアを基調としたもの。昨今一部で隆盛を見せている所謂ブラッケンドな音楽性でもって分厚く金属質なギターが雪崩のように責め立ててくる。影響を受けたもの「聖書」を挙げてくるあたり(BandcampのタグにはDeathspell Omegaが入っている)、思想的にもブラックメタル感があり、また音の方にもその影響は色濃く感じる。一番は間断無いトレモロリフで音作りがやや生々しいのでコールド感はそこまで無いが、一見優しさ皆無の容赦ない曲の隠れたメロディメイカーだったりする。クワイアっぽいアウトロを曲によっては入れたりして、そこら辺もハードコアから一歩進んだブラッケンド感をアピール。
曲は中速以上のスピードだが、速度を下げたりフィードバックノイズも多めでスラッジの要素を大胆に取り入れている。バンドアンサンブルを基調としたストレートな音作りだが、弾きまくるリフと展開が大仰とは言わないにしても空間的には広がっていく様な音作り。曲によってはポストメタル風のインストを挟んだり模するので、密室っぽいカルトメタルというよりはストレートなハードコアを感じさせるもの。音の一つ一つも詰まっていて質量がある。トレモロリフも相まってとにかく曲の密度が異常に濃い。しかも霧のような茫洋なものというよりはもっと実体のあるもの。なるほど「タール」である。これは思わずにやりとした。
このバンドの魅力はそのぎゅっと詰まった演奏に加えて、なんといってもボーカルでハードコアっぽい男っぽい咆哮スタイルなんだが、ハードコアにしては邪悪すぎる。ブラックメタルのイーヴィルなものとも一線を画す。私的にはNeurosisのScott Kellyにちょっとだけ似ているように聴こえる。声量が迫力を生み出し、余裕の無い感じが言葉に真実みを与える。(彼らの歌詞が分からないのが悔しい。)
面白いのは演奏は結構緻密でずっしりしていて喧しい。もしボーカルが違う人だったらこのバンドの印象はもっと違ったものではないかなと思う。もっとポストメタルっぽくカッチリ聴こえたのではと思う。ボーカルはバンドの顔とは言うらしいが、確かにこの邪悪なバンドの悪さをボーカルが結構な割合でになっているのだなと。

悪意の暴風雨でその衝撃に身をのけぞってしまうのだが、それが不思議と楽しい。
タールの様な真っ黒い音楽に目がない人は是非どうぞ。非常にオススメ!

2015年12月19日土曜日

中村融・山岸真編/20世紀SF⑤1980年代 冬のマーケット

中村、山岸によるディケード毎に時代の潮流を意識して時代時代に影響を与えた、また象徴するSFを集めたアンソロジーの第5弾。とびとびなのは前の3弾の時にも書いたけどAmazonに在庫が無かったため。
80年代は一言で表現すると新しいSF(第3弾もニュー・ウェーブだったね、そういえば。SFが先進的なジャンルなのは未来を扱っている事に加えて定期的に現状を大きく打開する新機軸が生まれてくるからってのもひょっとしたらあるかもしれない。)である「サイバーパンク」ムーブメントが始まった事だそうな。この本はギブスンとスターリングの両名を押さえつつ、それでも単に80年代はサイバーパンクだけでしたーというのではなく、その範疇に入るものとはいらないものを選定し収録する事で、80年代という時代をなるべく公正な視点でもってまとめようと言う意図が見える。
解説で語られている通りサイエンスファンタジーの蔓延への反発としてロクデナシ達を主人公据えた、技術が世界だけでなく人間そのものをも変容させた新しい小説群が台頭して来た。個人的にはSFといっても技術そのものというよりはそれによって影響を受けた人の姿と感情に焦点を当てた物語が好きなので(というか極端な話感情を書くための舞台装置としてSFガジェットがあるのだろうと思っているふしもある)、いわばかたりの視点レベルが一般人に落とし込まれたこれらの小説群には親近感がまして、俺たちの物語的な感覚が強くなり、より感情移入できる気がするな。(全くの別世界を描いた様な作品も勿論好きです。)
そんな私の胸を打ったのがグレッグ・ベアの「姉妹たち」。デザインされた子供と、自然に生まれた子供が一緒に通う学校を舞台に描かれたこの話。私も劣等感にまみれた”イケてない”学生時代を過ごしたもんだから性別は違えど主人公の気持ちが想像できて読んでいるのが辛いほどだった。これは克服とそして友情の話だ。そしてまた差別に対して人間が対抗できる方法の一つ(ひょっとしたらこれが唯一無二の方法だと私は思う。)を描いている。私は学校に大して色々な感情を持っていたが牢獄だと思わなかったが、なんとなくこの本を読んでそんな要素もあるかもなと思った。(やっぱり最終的には牢獄とは思わないが)それは強制的であることがその理由の一つだろうが、それが良い時がある。そういった意味では主人公をこの年代の子供たちに据えた作者は流石のセンスだと思う。
先進的な科学技術で大きくその姿を変えた(この物語の場合は変えられた)国で、普通の生活を営む人を書いたのがラストを飾るジェフ・ライマンの「征たれざる国」。これは変わるものと変わらないものを書いている。この物語は普遍的な物語を書いている。いつでも起こっていてこれからも起こるだろう問題を扱っている。技術が陰影ととくにグロテスクさを増していることは確かにそうだが、燃え盛る太陽と流れる血はいつの時代も変わらないものである。だから科学技術が古き良きものを破壊する、という見方はちょっと違うだろうと思う。生き方を書いているので、文明サイドに属する私はこれを見て衝撃を受ける。どんな結論を下せば良いのか未だに分からないが、その衝撃がなにより私はすきなのだ。それに伴う混乱も。言葉にできないものは無い訳ではないし、あるものを言葉で正確に表す事は出来ないのかもしれない。

また私の様な素人には巻末の解説がとても面白かった。やはり残りの巻も読みたい。案外本屋に残っていたりするから注意深く見るようにします。
まだAmazonには在庫があるので手っ取り早く面白いSFを読みたい人は是非手に取っていただければと。とても良質なアンソロジーだと思いますよ。

ユッシ・エーズラ・オールスン/特捜部Q -吊るされた少女-

デンマーク作家によるデンマークを舞台にした警察小説。
過去の未解決事件を捜査する特捜部Qシリーズの第6弾。

デンマークのボーンホルム島で40年警察に勤め上げたクレスチャン・ハーバーザートは自分の退官式で拳銃で頭を打ち抜き自殺した。彼は17年前少女がひき逃げされ樹につり下げられ殺された事件を執拗に追っていた。死の直前にデンマーク署の地下室で未解決事件のみを扱う特捜部に電話したハーバーザートはすげ無い対応に絶望したという。否応無く事件に引きずり出された警部補カール・マークら特捜部の面々は一人の男が私生活を犠牲にしてまで解決できなかった難事件に挑む。

人気シリーズも遂に6冊目。馴れた事もありたしかに始めの2冊のインパクトは無いのだが今作を読んで改めてこのシリーズの面白さを再発見したと思う。
この特捜部Qシリーズの魅力は沢山あるけど、まずはひたすらやる気の無い主人公カールと謎のアラブ人アサド、奔放かつ辛辣なローセ(二人ともミステリアスな要素がある)との軽妙なやり口。これによって堅苦しい警察小説にない雰囲気を獲得していると思う。のどかといったらあれだが。ただ彼らが取り扱う事件というのがこの上なく凄惨である。この凄惨が何かな時になっていたのだが、今作を読んで思ったのは2つ。
始めは暴力の使い方で、例えばバラバラにされた、大量に殺された、サイコパスなどの派手な要素は意外に無い。今作でも切っ掛けになるのは一人の少女とその轢死である。ど派手に目を引く様な作風ではない。また警察小説だが発砲するような暴力性はほとんどない。このほとんどが重要で大抵終盤くらいにカールたちに暴力が襲いかかるのだが、これが本当油断したところにくるくらい唐突なのでとても効果的に見えてくる。暴力の使いどころを作者がきちんと分かっているなと思う。
もう一つは陰湿さだ。今作を読んだ人に思い出してほしいのだが、特にこの物語ではまともな人間が出てこないでしょう。読後感と主人公たちのキャラクターにいい感じに中和されてしまうのだけど、思い返してみると本に出てくる人物たちは悪意とはいわずともどこかしら上記を逸している。それもサイコパスというのではなくて、普通に暮らしている人たちのエゴとそこから一歩、もしくは数歩すすんだような、想像のできる嫌らしさである。これが相当だ。身勝手、愛憎、執着、読んでいる時にげんなりするくらい負の感情のオンパレードである。よくもまあこんな暗さを含んだ小説がベストセラーになるものだとなかばあきれてしまうくらいである。(勿論言うまでもなく面白いからだ。)この作者はなかなか意地の悪い人かもしれないよ。
面白いなと感じる物語は沢山あるし、上手いなと思わせる作家もいるが、物語の作り全体を通してここまで完成度が高いのはちょっと珍しいのではと思う。

相変わらずのクオリティで楽しめた。
あくまでもエンタメ小説の枠に入りながらも薄皮の裏側にある人間のダークサイドを描いた小説。気になる人は1作目から是非どうぞ。

2015年12月13日日曜日

The Rodeo Idiot Engine/Malaise

スランス(FBにはバスク州(スペイン?)と書いてあるね…)のハードコアバンドの3rdアルバム。
2015年に複数のレーベルから発売された。私が買ったのはデジタル版。
このバンドの事は全然知らなかったのだが、twitterでフォローさせていただいている方がお勧めしているのを切っ掛けに購入。タイトルの「Malaise」は不安とか沈滞とかそういった意味だそうな。
どうでも良いんだがロデオとつくと途端にミッシェルガンエレファントっぽくなりますよね。ロデオタンデムビートスペクター。

2009年に結成されたこのバンドは自らをブラッケンドスクリーモバイオレンスと称している。オフィシャルサイトのaboutを読むとカオティックハードコアとポストメタルかスクリーモの不快な部分の間の子と書かれている。なるほど確かにちょっと前ならカオティックハードコアと紹介されていた様な音像。FBの影響を受けたバンドにはConvergeやCult of Luna、それからGazaの名前が挙がっていてまさにそこら辺のバンドからの影響をヒシヒシと感じる。
曲は2分台から7分台で通常なら何曲かけそうなアイディアをそれぞれに詰め込んでいる印象。速いし展開も複雑でせわしない。かと思ったらアンサンブル以外の音色も取り入れている激スラッジっぽい曲もある。荒々しく混沌とした音楽性の中にも、例えば前述の音色の豊かさだったり、カオティックの一側面であるマスロックへの接近や、執拗な反復に曲の尺を贅沢に使ったり、劇的なギターのトレモロリフだったりでハードコアから一段階進んだ知性的な方向への指向性が感じられる。ともすると過度に知的な面に接近するあまり、まとまりと攻撃性の欠如に陥りがちなところを、内蔵吐き出しそうな劇的なボーカルと露悪的(ジャケットを見ていただけるとなんとなく彼らの態度というのが理解できそう)とも言える突き放した様な意識的な醜さがストップをかけている。曲の長さも程よくあくまでもハードコアの土俵で戦おうぜという気概が感じられる。8曲目は短く終始突っ走る中にも何とも吐かないメロディが隠れていてこういうところも良い。
4曲目はバイオリンも取り入れた静寂パートが吐き出す様なボーカルから一点、地獄のようなスラッジの展開をみせるもので、ある意味では王道なのだがやはり自分はこういうのに弱くてリピート必死。このスラッジパートもボーカル一本で持っているのではなく、ギターはうねる様なトレモロを奏でる一方で、ドラムとベースがタメのあるもったり感を演出していて結果音の数が多いのになんとも堂々とした異彩を放っている。前半の器用さを見事に台無しにするこの感性!とても好きです。

終始テンション高く、ともすればいかれている位の激音なのだが、そこかしこに知性を感じさせるバンドだなと思いました。音的には荒涼とした風景を感じさせるもので私的にはこういった世界観は非常にツボでした。4曲目ばっかり聴いている。


Corrections House/Know How to Carry a Whip

アメリカのスラッジ/インダストリアルスーパーグループの2ndアルバム。
2015年にNeurot Recordingsからリリースされた。
2012年にEyehategodのMike、NeurosisのScott、YakuzaのBruce、MinskのSanfordによって結成された。どう考えてもスラッジ臭が漂ってきそうな面子でその期待は裏切られないのだが、そこに強力なノイズを加えたのがこのバンド。既に十分重たく遅いのになにもそこまでという無慈悲さはバンド名(Correctionsは監獄の意味だからHouseをつけて獄舎だと思う。)やアートワークにも如実に表れているが、シンガーだけではなく詩人としても活躍するボーカルのMike IX Williamsの感性が働いているのだろうか。(「鞭を運ぶ方法を知れ」というタイトルには一体どういう意味が込められているのだろう。)

基本的には前作を踏襲する音楽性で間違いないと思う。
このバンドを聴いてつくづく面白いなと思うのは無機質と有機質の強引とも言える融合感。スラッジというと色んなバンドがいるがどれもその音楽性は生々しい。嫌悪憎悪ドラッグ嗜好性、おもに負の感情がハードコアなアティチュードでもって吐き出されるのがその心情かと思うが、そこにインダストリアルの要素を持ち込んだのがこのバンド。ここでいうインダストリアルは例えばMinistryだったりGodfleshだったりを彷彿とさせる、一撃一撃が不自然なまでに重々しいマシンビートを基調に、ギリギリギチギチした比較的分かりやすいノイズを投入している。要するに無機質で野蛮さを投入するための音使いという感じで、繊細な芸術性とは無縁である(結果芸術性を獲得しているのは無論だが。)。
徹頭徹尾無慈悲な音世界かというとここからがこのバンドの変わったところで、例えば放心した様なアンビエントな楽曲だったり、アコースティックギターを基調とした土臭いカントリーな楽曲だったり、Bruceのなんとも哀愁のあるサキソフォンだったり、そういった感情豊かなアウトプットをインダストリアルの土台にさらにどっかとのせてくるスタイル。いわばアクの強い面々が個性的すぎる要素を掛け合わせる実験室としてのこのバンドは、結果見事にその独自性を獲得している。奇形の実験音楽としてではなく、このバンドにしか出来ない唯一無二の音を完成させているその秘訣は、たぶん元々負の方向性に舵を取っているもののスラッジの心情が根底にあるからなのかもしれないな、と思った。多様な音楽性を取り入れつつもスラッジというぶっとい軸で一本通してやるとこんなにも上手くまとまるのである。だから地獄の様な音像であっても血が通っていて、それがマシンビートを通じてキチンとこちらの血を踊らせるので。そういった意味ではラディカルななかにもベテランたちの凄まじさを感じ取ってしまうのである。職人気質というかいぶし銀でぶれてないなあ〜という感じ。
唯一いうとしたら前作はタイトル曲がドローンにMikeのポエトリーリーディングがのるという形で、ぽつぽつ語られるアメリカの荒廃した風景に何故か日本でぬくぬく生きている私が泣きそうになるという珍妙な出来事が出来して、それ以来超ヘヴィロテなんだけど今作では全編攻めの姿勢でその種の曲は入っていないんだよね。でも今作はラストでScottの歌声もたっぷり楽しめるし(超良い曲なんだこれが!)、全然良いですね。

2曲目聴いた時にやっぱりスゲエなと放心してしまった。なんだろうな、始めの印象よりずっと感情豊かだなあと聴くたびに思ってしまう素晴らしい音源。意外にあったかいんだよ〜是非どうぞ。

2015年12月12日土曜日

Totem Skin/Weltschmerz

スウェーデンはボルレンゲ、Falun(ファラン?ファルン?)のクラストハードコアバンドの2ndアルバム。
2015年に複数のレーベルからリリースされた。私の買ったのはデジタル版。
タイトルになっている「Weltschmerz」とはドイツ語で世界苦、厭世を意味する言葉らしい。生と死を混ぜて白でまとめあげた印象的なアートワークはChris Panatierの手によるもの。2012年に3人体制で発足したバンドはメンバーチェンジを繰り返し今は5人体制でやっているようだ。(彼らのFBより)

ダークハードコアとも評されるその音楽性は苛烈なハードコアを基調に、哀切に満ちたメロディを大胆に取り入れたもの。本人たちも自らの音楽性を「Fast,Heavy,Atmospheric」と称している。矢継ぎ早に繰り出される全7曲はまるでブリザードのよう。ブラッケンドとも称されるのは掠れていい感じにイーヴィルな質感を持っているボーカルの片割れと、ひたすら弾きまくるギターリフ故か。ただブラックメタル的な冷たさはあまり感じられなく、ギターリフにしても例えば6曲目なんかは勇壮でこちらを鼓舞してくる様な異常な”熱気”に満ちている。ニヒリスティックでお前を殺して私も死ぬ的なブラック感というより、タイトル通り生きる故の苦しみを悩み抜いた末に熱い気持ちとともにこの世にまき散らした様な気概を感じる。
ざらついた質感のギターの音は確かに今風だが、コンパクトにまとめあげて来たファッション性は皆無で、持てる武器を最大限に有効活用し、過去にリスペクトを捧げつつ、あくまでも伝統に則りその枠を超えようとする温故知新のその音楽性には頭が下がるばかり。なんら奇抜な事はやっていないのだが、人間の表現力(の結果)というのは想像を軽く追い越していく。
メロディアスと言ってもボーカルが分かりやすいサビを歌い上げる訳ではなく、轟音の嵐の中にそのメロディがわずかに終えるもの、アコースティックギターの静謐なアルペジオ、男臭いコーラスワーク、それからバンドアンサンブルで竜巻の中心に突っ込んでいくように爆走するその轟音自体がメロディとなっているものと表現の仕方は様々。どれも飾りっけなし。例えば5曲目なんかは中盤から後半にかけてのクライマックス感は半端無く、暴風雨の中叫びまくる後ろで泣きまくるギターがささくれた旨に火をつける。あったかい。ひたすら五月蝿い音楽何故こんなに涙腺を責め立ててくるのか分からないながらも涙がちょちょギレル激アツな展開に思わず笑い泣きの1曲。リピートが止まらん。

何の気なしにかったらとんでもない音源だった!的な嬉しさ満点の1枚。熱い音楽を聞きてえなという心も体も12月の空気に冷えきった貴方を熱くさせる激オススメの音楽を是非どーぞ。

Vision of Disorder/Razed to the Ground

アメリカはニューヨーク州ロングアイランドのハードコアバンドの5thアルバム。
2015年にCandlelight Recordsからリリースされた。
1992年に結成されたバンドで3枚のアルバムをリリースした後、解散。その後2008年に再結成し2012年に4枚目の「The Cursed Remain Cursed」をリリース。その後3年を経てリリースされたのが今作。この手のバンドには珍しくずっと結成当時のメンバーで活動していたが、前作リリース後にギタリストが一人脱退してしまったそうな。
タイトルは「焼き払われた」という意味。前作の「呪われたヤツは呪われたまま」からより直接的なインパクト。
私は学生の頃に1stと2ndがセットになったCDを買ってこれがハードコアなのか!とビックリしたものだ。重量感のあるザクザクとした攻撃性が一点抒情的なメロディが乗っかるからハードコアなの?メタルなの?と戸惑ったが某巨大掲示板だかでNYハードコアですみたいに書かれているのを見て、なるほどNYハードコアか〜と納得する事にした。2ndのラスト「Jada Bloom」はキラキラしてさえいる哀愁のハードコアで大好き。すごいもう大ファンですという訳ではなかったが前作のリリースは嬉しかったし良く聴きました。

前作もそうだったが今作も彼らのスタイルを踏襲するスタイル。
メタリックなリフがざくざく切り開いていくスラッシーなハードコア。面白いのは曲の速度がだいたい中速くらいで決して速くない。ドコドコバスドラムを踏んでいくので気持ちよいのだが、はっと気づくと実際の速度は速いって訳ではないです。迫力満点だが飾りっけの無い力一杯のスクリームはハードコア由来のもので、これがこの速度に良く合っている。もしかしたらこの声に合わせているのかもしれない。矢継ぎ早に言葉を積み上げていくのではなく、一語一語血反吐とともに吐き出しましたよ、という歌唱法なのでどっしりとした店舗にはうってつけ。切り刻んだ様なリフはとにかく気持ちよくグルーヴィ。ボーカルが強いのでともすると陰惨になったり、速度でごまかさない分一本調子になりがちな曲をこのスラッシュ成分が彩り豊かにしていると思います。
そしてボーカル。サビって訳ではないのだがここぞって時にクリーンボーカルを繰り出してくる。決して上手いとかそういう訳ではないのだがなんとなく気怠げで掠れた声質で妙に癖になる。メロディアス加減も程よい感じ。今作は前作以上にクリーンボーカルの頻度が増えたと思うんだけど、そこが個人的には気に入りました。グルーヴィなブルータルな曲調は本当ハードコアという感じでアグレッションを耳が痛いくらい感じ取れるんだけど、そこに憂いの感情を追加しているのがこのメロディアスなボーカルなんだよね。開放感があるようで実は結構暗めの色彩という感じでそこが何となく個人的に合っている感じ。

個人的には前作以上に気に入いりました。気づくと結構繰り返し聞いている。うーんこれはかなりオススメ。