2016年8月27日土曜日

Bad Brains/Bad Brains

アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.のハードコアパンクバンドの1stアルバム。
1982年にReachout International Recordsからリリースされた。私が買ったのはボーナストラックが追加されリマスターされた再発版。
Ramonesの曲名を冠したこのバンドは1977年に結成された。暴動の様なライブでワシントンD.C.のすべてのライブハウスから出演禁止を言い渡された「Banned In D.C.」(Band In D.C.とかけてる)のエピソードは有名。速度の速いハードコアとゆったりとしたレゲエを組み合わせたその独特の音楽性で持ってミクスチャー音楽の先駆者として名を馳せる。メンバーは全員黒人で当時のアメリカではきっとこれはすごい事だったのではなかろうか。
にわかの私でも鋭角的にジグザグを描く稲妻がホワイトハウスを直撃する黄色を基調とし、ラスタカラーで彩られたアートワークは知っていた。このたびBad Brainsの映画が公開されるという事で遅まきながら買ってみた次第。

ボーナストラック1曲を追加した全部で16曲を36分で突っ走る爆走ハードコア+レゲエ。
30年の月日が経った今リマスタリングを考慮してもその音は軽く、現代のハードコアのそれとは隔たりを感じるがその勢いは今聴いても凄まじい。1曲目の「Saillin' On」を聴いたらもう体を動かさずにはいられないだろう。スタスタ突っ走るドラム、音はソリッドでシンバルのクラッシュが非常に印象的。音数が多く印象的なフレーズを入れてくる主張の強いベース。弾き倒すような前のめりなギター。たしかに余計な装備を剥ぎ落とした速度のみを追求する危険な乗り物の様なストイックな格好良さがある。しかしよくよく聴いてみると、短い曲の中にも一筋縄でいかない展開、速度の変更、短いギターソロは良く練られていてキャッチー、まくしたてるボーカルもあってハチャメチャに聴こえるのだが、なぜかとてもポップ。どうもwikiによると元々フュージョンのコピーなどをやっていたらしくかなり技巧的には優れたバンドだったようだ。完全に意図された爆走という訳ではなかろうが、この勢いの裏側には努力の末に獲得された技術があるのだろう。
そんな確固たる演奏陣に引けを取らないのが、なかなかトラブルメイカーの様な印象のあるボーカリストH.R.。現在確立されているハードコアのボーカルの範疇には収まらない破天荒なもので、強面感はほぼ皆無。まくしたてる早口はいたずらっ子のような若さ、青さがある。フリーキーな歌唱法もあって非常に自由な感じ。良くも悪くも不安定であっちに行ったりこっちに行ったり。
そんなボーカルと演奏を聴いてみて思ったのは初期の、ADK盤のころのあぶらだこに似ている。勿論あぶらだこの結成は1983年でこのアルバムがでた後だから影響を受けたのはあぶらだこのほう。基本的にハードコアの速い演奏だが、妙にフックを入れた曲の構成。けいれん的な危うさがあるボーカル。そして激しい演奏の裏に見え隠れする奇妙ないたずら心。結構似ていると思う。(ちなみに映画のオフィシャルであぶらだこのひろしさんがコメントを寄せている。)
Bad Brainsには大きな特徴があってそれがレゲエの要素。ミクスチャーの走りといってもこの頃はハードコアスタイルとレゲエスタイルは曲によって明確に使い分けられている。ハードコアの曲間に完全にレゲエの曲が挟み込まれる。ぐっと速度は落ち、そして裏打ちするギターを始めとする楽器陣は音の数もすごく減る。居住まいを正した様なH.R.はゆったりとしかしソウルフルに伸びやかに歌い上げる。主張があって音楽がある。とても自然な事なのかもしれない。

Fugaziもそうだったけど歴史のお勉強ではなくて今聴いてもカッコいい。あの印象的なアートワークをモチーフにしたT-シャツが未だに愛されているのは単純に見た目がカッコいいからじゃなくて、Bad Brainsの音楽と主張が今でも非常に力を持っているからだと思う。ハードコアのルーツを探りたい人以外でも、あぶらだこ好きだ!という方は是非どうぞ。


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