2017年3月19日日曜日

ENDON/Through The Mirror

日本のノイズ/バンドの2ndアルバム。
2017年に日本のDaymare Recordingsからリリースされた。
ENDONは2006年に結成されたバンドで今はドラム、ギター、ボーカルに加えてノイズのメンバーが2人いるちょっと変わった体制のバンド。
今回の新作は日本のバンドとしては初めてConvergeのギタリストKurt Ballouと彼のGod City Studioで録音・プロデュースされるということで発売前からかなり期待値が高かったと思う。

ENDONには歌があるのだが歌詞がない。ずっと意味のない音を叫んでいることになる。ノイズを激しく噛ませたバンドなので非常にその主張することは謎に包まれているのだが、今回リリースに合わせたプロモーションということもあって色々なメディアに直接的な言語で新作やバンドについてのステートメントが発表されていて、それが彼らに対する情報不足を補完するという以上に単純に読んでいて非常に面白い。
私が読んだのはメンバーの一人名倉さん(弟)がアルバムの曲目ごとに短編小説を書くCDJournalの一連の連載(今の所まだ連載中)、ディスクユニオンのフリーペーパーFollow UPのインタビュー、それからEle-kingの女子会と称されるインタビュー。それから再読になるが前作リリース時のCDJのインタビュー。どれも面白いのでまだの人は是非読んでいただきたい。
ENDONはやばい。当初からそういう話だったし、初めてライブを見たときは意味がわからなかった。ノイズがフリーすぎてどこに乗れば良いかわからなかったのだ。ただ「Acme.Apathy.Amok.」は買って帰った(あの時の自分を珍しく褒めてやりたい)。今作もやはり”ヤバイ”ということになっているし、バンド側もそう思われることを企図しているように感じる。しかしこのバンドの側からの日本語のステートメントを読んでなるべく”ヤバイ””すごい”で片付けないようにしないといけないという気持ちがしている。というのもボーカルの名倉さん(兄)が「俺は感じるな、考えろ、お前らバカなんだからって思うよ」といっていて(ele-king)、私は感情的な人間だが、常に考えることがたとえ良い結果につながらないことが往往にしてありながらも、それでも考えるということが絶対的に良いことだと信じたいと思っているのでこの言葉が非常にぐさっときてそして好きなのだ。

ENDONの音源を全て抑えているわけではないのだが、前述の「Acme.Apathy.Amok.」、それから1st「MAMA」を踏まえるとだんだんノイズの自由さが制限されて代わりにロックバンドとしての機能が台頭してきている。今作もその流れにあると行って良い。過激な内容であることは間違いないが、今までの音源の中では一番聞きやすいのではないだろうか。いわゆるアンダーグラウンドな音楽界隈では聞き易くなること=セルアウトとして嫌われるが、本人たちは「単純に金と名誉が欲しい」と嘯くヒールっぷりである。前作まではノイズを主役として捉えて色々とノイズを中心に工夫していたのだが、今回Kurtはノイズを全部定位置で録音しているという。単に楽器の一つとしてノイズを使い出したそうだ。つまり今作でノイズ担当がいるロック(フォーマットの)バンドということにENDONはなった。(次作以降どうなるかは当然わからない。)
twitterでもちらほら見るがブラックメタルっぽくなったというのも頷ける。トレモロギターの登場頻度が増えたからだ。しかし前作リリース時のインタビューを読むと当初からノイズとの相性がいいとしてトレモロを多用していることを打ち明けている。つまり単に壁のようなノイズが鳴りを潜め地金がよく見えるようになったということだけなのかもしれない。トレモロも含めて全ての音が敢えて重さをある程度抜いたガシャガシャした音で作られているのが個人的に面白い。Full of Hell/Code Orangeはモダンなハードコアの重低音を足し算/掛け算したが、ENDONは引き算をやってきたのだ。強いやつ強いやつ×無限大の螺旋から抜け出してもっと別天地に行くことにしたのだろうと思う。「Perversion 'Till Death」の重厚なノイズと相対する爪弾かれるギターの旋律の美しさをきいてほしい。今までのENDONとは明らかに毛色が違う。そうこう思っているとタイトル曲「Through The Mirror」になだれ込む。激しいノイズと絶叫の応酬のその後ろに何かが見えている。私はそれは”美しさ”ではと思ったのだが。絶叫で構成されているそれは何かしら不穏な空気をはらんでいる。大仰にいえば巨大な兵器が爆発する様を遠くから(爆心地にいたら美なんて感じるわけがない)眺めているような、そういってしまうのが不適当であるような美しさであった。「Tourch Your House(お前の家に火をつけろ)」は大爆発で帰る場所がなくなって、さあてこれからどうするのだ、というそういう歌であるように私は思った。退路を絶って前進せよ、とは過酷である。そして曲は直接的に感情的だ。現状の音楽ジャンルであるところのエモ、激情系を「エヴァンゲリオンごっこ」と切り捨て(Follow Up)、もっと直接的、彼らの言葉によると大脳皮質ではなく情動に訴えかける音楽をノイズという劇薬で持って、そして直接的に言葉を用いずに表現した。不敵で挑戦的だが、出来上がったものを受け取って聞いた人が何かを感じずにはいられない作品になっていると思う。
ある意味ではなんでもノイズ味(黒)にしてしまう必殺の黒い絵の具であるハーシュノイズに何か別の意味を付与しようという試み(=彼らのいうところの実験)であって、そういった意味では非常に挑戦的な作品であり、個人的にはこの1作品でもはやその回答を垣間見ているのではないかという感動がある。だってこのアルバムの色鮮やかさを聞いてほしい。

非常に真面目な作品だと思うし、憧れで音楽をやっているというステートメントも理解できるような気がする。そういった意味では純真といっても良いかもしれない。だって期待があるからだ。素晴らしい音楽だ。私は大好きだ。まだ聞いていならこれから聞けるという幸せを持っている。是非聞いてみていただきたい。

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