2017年10月7日土曜日

Chelsea Wolfe/Hiss Spun

アメリカ合衆国カリフォルニア州ローズヴィルの女性シンガーの5枚目のアルバム。
2017年にSargent Houseからリリースされた。
前作「Abyss」の発売が2015年だからコンスタントに新作を発表し続けている感じ。私が聞き出したのは2ndアルバムの「Apokalypsis」から。この人は結構アルバムによって音楽性に幅がある用に感じる。インタビューを読むと元々フォークの人らしく、なるほどどのアルバムにもその要素は感じられる。フラフラ流行りに乗っているというよりはフォークを足場に色んな要素を取り込んでいるということだろうか。どうもバンドメンバーと出会うことでその音楽性の幅を広げているようだ。前作「Abyss」はかなりロック寄りの”重たい”アプローチを取ったアルバムだった。今作でもかなり歪んだバンドアンサンブルを取り入れており、基本的にはその路線を踏襲している。個人的にはやはり2ndのフォークとロックの危ういバランスが好きなのでこの路線は歓迎だった。今作私はとても好きだ。

録音はConvergeのメンバーで売れっ子プロデューサーKurt Ballou。(彼はプロデュースはしていない。)それからこの間新作を出したQueens of the StoneageのギタリストTroy Van Leeuwen、SumacのAaron Turnerが参加している。
ギターとベースは歪められ重たい。ノイズを伴ってもったりと演奏されるさまはなるほどドゥームと称されるのもうなずけるが、結構個人的にはオーソドックスなロックフォーマットだなと感じた。というのも彼女の歌が全面に出ているから。Aaron Tunerはゲストとして雄々しいボーカルを披露しているが、Wolfe本人はウィスパーなど歌唱法は色々ありつつも基本的にはクリーンボーカルで節回しのある歌を歌っている。曲によっては大変メロディアスで、やはりここがかっこいい。アンダーグラウンドのメタルやハードコアだとわかりやすいメロディとかは敬遠されることもあるが、彼女の場合はやはりフォークシンガーなのでまずは歌ありきだと思う。ロックというフォーマットは意地悪く言うと虚仮威しといってもいいかもしれないが、わかりやすいという利点があって、でかい音は出しつつもChelsea Wolfe本人の歌声の邪魔はしないで、むしろ音が小さいというフォークの弱点を打ち消している。轟音の中で響くか細い女の人の声というのはシューゲイザーを引き合いに出すまでもなく魅力的で、蠱惑的である。
素晴らしいインタビューによるとタイトル「Hiss Spun」というのは「ホワイトノイズ+酩酊」という意味らしい。なるほど彼女の声はゴシックというかちょっと神がかりなところがあって、速度の遅い靄のかかったような音(轟音とそれからリバーブを効かせた静かな曲、両方が楽しめるが共通点はある程度の”曖昧さ”があるところ)にどっぷり浸れる。調べてみるとhissと言うのは「シューという声」、spunはspinの過去分詞でspinには「吐く」という意味があるらしい。となると「シューと吐かれた声」というふうにも取れる。猫を飼っている人はわかると思うけど、彼らが「シュー」というのは興奮したときの威嚇の声である。この威嚇というのは攻撃性とその背後にある恐れ、つまり弱さがあいまっている。この新作も女の人の情念というのが色濃く出ているが、恨み節や怒りの声というにはやや曖昧である。というのもその背後に”恐れ”があるからではなかろうか。(彼女がうずくまっている姿が印象的なアートワークもなんとなく怯えている猫のようにも見える。)強いのには憧れるが、弱さにも美しさがある。私が弱い人間だからかもしれないが、弱さは人の胸を打つ。いい意味で轟音の中に煮え切らない感情が渦巻いている。それをゴテゴテ賢しげにいじくり回さずに、スパッと吐き出したのがこのアルバムではなかろうか。惑う心中が弦の震えに共鳴して放射されているようで大変心地よい。ロックサウンドは彼女の声の増幅装置として働いている。

Chelsea Wolfeはどのアルバムかっこいいが、今作は3rd以降で一番好きかもしれない。気になっている人は是非どうぞ。非常にかっこいい。おすすめ。

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