2017年10月11日水曜日

Various Artists/ろくろ

日本のレーベルLongLegsLongArms Recordsのコンピレーションアルバム。2017年に同レーベルからリリースされた。
参加しているアーティストと収録曲は以下の通り。(レーベルHPからコピペ。)
1. ILIAS - 存在と理由
2. The Donor - Kagerou
3. KUGURIDO - 桃源郷夜想曲
4. KLONNS - KNIVES
5. KLONNS - SODOM
6. SWARRRM - march
7. unfaded - 漆黒
8. PRIZE OF RUST - Decade
9. PRIZE OF RUST - Spectator
10. ENSLAVE - Killing Me Softly
11. Pterion - Schwein
12. ungodly - 蝕
13. Yvonxhe - Incessant Mournful Tale
14. Vertraft - MEMORIZE
すべて日本のバンドで、バンドの活動拠点は東京、関東にとどまらず関西・金沢・四国と様々。レーベルオーナーが実際にあったバンドからセレクトされている。

LongLegsLongArms Recordsは主にハードコアを取り扱うレーベルだが、主にネオクラストと呼ばれるジャンルをメインに紹介している。ハードコアのなかのサブジャンル、クラスト(コア)のさらにサブジャンルであるネオクラストだからまあ結構マニアックな音楽だと思う。このネオクラストというのが(個人的には)かなり難しいジャンルで説明するのが難しい。説明する時に「ブラッケンド」「激情」「クラスト」「エモ」「エモバイオレンス」なんかの単語を使うとうまくいくような気がする。そんなに歴史のあるジャンルではないと思うので、おそらく私だけでなく演奏する方も難しいな〜とは思っているのではなかろうか。というのも真性のネオクラストバンドというのはまだ日本にはそうそういないのではなかろうか。この音源だとネオクラストを自称している(=明確に指向している)バンドは多分姫路のKUGURIDOだけではなかろうか。その他のバンドはネオクラストという言葉が浸透する前にそういった音楽をやっていたバンド、要素としてネオクラストを取り込んでいるバンド、一聴したところ(ネオ)クラスト感のあまりなさそうなバンドなど。おそらくより浸透性のあるジャンルで言うと、ハードコア、ニュースクール、カオティック、グラインド、ブラックメタル、エモバイオレンス、激情などにカテゴライズされるのではなかろうか。要するにその中にネオクラストの影響(意図的なものと無意識的なもの、両方)を感じ取ったレーベルが、少なくとも日本では未だ黎明期にあるネオクラストシーンにこれだ!と押すのがこのコンピレーションなのではと個人的には思う。まだ良くも悪くも混沌としているネオクラストという概念をそれを取り巻く周辺含めてすくい取ったのがこの「ろくろ」という一つの音源なのではなかろうかと。
レーベルはサンプラーと称してそれに所属するバンドを紹介する音源を作ることがあるが、まさにこの「ろくろ」は紹介する意味合いが強い。(ただ既存の曲を集めたわけではないからサンプラーとは呼べないだろうが。)全部で4万字を超える各バンドへのインタビューもその紹介、もっというと収録するバンドを理解し、咀嚼してそれを第三者(リスナー)に伝えようというレーベル姿勢の表れと見て取ることができる。(私の感想は作品を理解しようという試みなので(つまり読書感想文と同じ一つの解釈にしかならないのです。)、こういった姿勢は非常に共感できるのです。)

収録されている音を聴いてみると前述のような状況なので統一感がありつつもバリエーションの有る個性的な音楽が矢継ぎ早に展開される。(おおむね1曲あたりの収録時間は短め。)ニュースクール・ハードコアに日本なりのハードコアの伝統を融合させた音、ブラックメタルの影響色濃いいわゆるブラッケンドと称されるハードコア、もはやブラックメタルにしか聞こえないブラックメタルなど。このオムニバスの面白いところのもう一つは全国から収録バンドを集めたこと。音楽を語る上で切っても切れないのが”シーン”という言葉だけど、これが横というか平面上で語られるのが地域で、もはや結線されてもいないネットで結ばれた社会では情報が均質化されるが、それでも地方ごとのシーンというものは健在であるようである。その地方ごとの特色がきっとバンドの出す音に表れているのであろう。一言に激情と言ってもテンプレート的な激情の影響を収録曲に見出すことは困難である。(バンドの個性なのかシーンの特色なのかはちょっと判断できないのだけど。)

レーベル名は足長手長(手長足長とも)という妖怪なので「ろくろ」ときくと「これはろくろっ首のことに違いない!」と早合点したのだが、どうも陶芸を作るときのろくろという意味もあるらしい。面白いと思ったのは新しいものを作る際にはたいてい土を捏ねる、という言い方をするが、ろくろはある程度形になっているものを整形するのに使う。多分日本でのネオクラストの土台はである程度出来上がったので、3LAとしてはそれを集めて形を整え、全国にお届けするよ、ということなのだろう。「ネオクラストはわしが育てた」という居丈高の態度ではないのが非常に謙虚だと思う。

まだこれからのジャンルだと思うので、耳が早いひとはチェックしてみると面白いのではなかろうか。降って湧いた進行ジャンルではなく、静かに進行した音楽的傾向を「ネオクラスト」としてすくい取ったイメージだ。なので妙な作為性や違和感は皆無である。

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