2018年1月20日土曜日

椎名誠/椎名誠 超常小説ベストセレクション

日本の作家、椎名誠さんの短編集。その名の通り日常から離れた変わった物語を集めた短編集。
椎名誠さんのSF以外の短編集を何冊かかって読んでいたが、これで一旦区切り。(多分他にももっとたくさんあるのだろうが。)この本のみ新品で買った。(私は音楽でも本でも新品買えるならなるべく新品を買うようにしている。)

元々椎名誠さんはSFが好きで何冊か読んでいる。この人の書くSFというのは最先端のハードSFとは一線を画す独特の世界観がある。簡単に言うと2つあって、一つはサイエンス的な要素はふんだんにあるがそれの説明をしないこと、造語を用いたオリジナリティのある世界観がありマクロな視点で野性的な世界のごく狭い範囲を旅や冒険という形で書くこと、だろうか。とにかく全世界人があまり行かないような僻地まで旅をする方なので、それを活かして新奇ながらどこで見たことのあるような懐かしい別天地(もちろん矛盾している概念である。)を生き生き(時に非常に厳しく残酷でギラギラと人を惹きつける。)を描き出す。いかにもインテリジェンスが知の迷宮に閉じこもって描いた執念のハードSF(こういうのも私は好きだ。)とはやはり結構違う作風だと思う。
そういうわけで椎名誠さんの書く物語というのはSF的であると同時に生活臭がして、そしてそこが異常事態に片足を突っ込んでいる(こともある)ので、超常小説、というのは実はしっくり来るのだ。何冊か読んで、おそらくサラリーマン時代の経験を活かした超常なのか日常なのか怪しい小説があることも知った。この人は特異な状況を描くが、それ自体が目的でなく、とにかく無骨でぶっきらぼうな語り口なのでその真意というのは常にはっきりとしないのだが、なにかしらこちらの、少なくとも私の胸を強烈に打つ、感情豊かな何かがある。

椎名SFではおなじみの灰汁と百舌シリーズも何作か収録されており、楽しい気分で再読した。やはりこの二人のたまにあって悪さをする、そして何かトラブルに巻き込まれる、みたいな関係性が良い。
初めて読んだ「ぐじ」は日本の失われつつ風景が田舎の萎びた温泉宿に結実している叙情性溢れる作品かと思いきや、これがとびきりの怪談であって非常に面白かった。椎名誠の怖い話というのは他の短編でも幾つか読んだと思うけど、こうも正統派な怪談というのは初めてで面食らいつつも、怪談というジャンルでも相当の出来なのでは。
「問題食堂」に関しても尽きることのない人間の愚かさを時代の変遷とともにコミカルに書いた作品なのだが、こちらもとある場所に書けられた”呪い”では?って考えると結構怖い。
やはり表紙にもなっている「雨が止んだら」が白眉の出来で、前述した無骨な語り口のは以後にある感情の豊かさ、というのがこの短編に結実していると思う。三角錐のプリズムのようにキラキラしている。そしてその光は暖かく、同時に切なく苦いのだ。この環状の本流こそ読書の醍醐味だろう。

この本ならまだ普通に本屋で買えると思う。ベストセレクションというとおり、この本でSFから少し不思議まで椎名誠さんの小説世界をざらっと総括して楽しめると思う。後書きによるとこの本にはネタの本があって、作品がいくつか入れ替わっているようだ。元ネタの本も読んでみたいという気持ちになっている。

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