2018年1月21日日曜日

Butcher ABC/North of Hell

日本は東京のデスメタル/ゴアグラインドバンドの1stアルバム。
2017年にObliteration Recordsからリリースされた。
1994年にプロジェクトとしてスタート。2002年にバンドとして再始動したとのこと。
結成から20年以上経ってからの待望の1stアルバム。タイトルはSlayerのかの名盤「South of Heaven」に対するオマージュとのこと。

結構な数の音源をリリースしているバンドで私はメキシコのParacocci(以下略)とのスプリット(2004年)とGeneral Surgeryとのスプリット(2009年)を持っている。特に前者だとだいたい30秒位の曲を矢継ぎ早に演奏するグラインドコア/ゴアグラインドバンドだなと言う印象だったのだが、今回のアルバムはかなり音楽性が異なっていて驚いた。
学生時代に過激さを求めてグラインドコア〜ゴアグラインドを少し聴いていた時期があったんだけど(私は死体ジャケが苦手でガッチリいろいろな音源を買うには至らなかった。LDOHとかJig-AiとかCock and Ball Tortureとか有名所をちょっとくらい。)、どれもやはり損壊した人体を思わせる残虐性と腐臭が音と曲の構成に影響を与えたドロドロ具合だった。Butcher ABCに対してなんとなくそんな音のイメージというか先入観があったのだが、実際この音源を聞いてみると、バリエーション豊かな音楽を統一し見事にまとめている。その洗練されようと言ったらある種のメジャー感すら漂う、20年以上の活動期間から来る王者の風格を感じさせる堂々としたデスメタル。爽やか、とは流石に行かないがとにかく抜けがよくて耳を通してスコーンと脳に突き刺さって、体が動いちゃうようなポジティブさ/楽しさがある。
全編ツインボーカルスタイルが特徴で、片方はどう聴いてもゴアグラインドなキュルキュル吸い込むような低音、もうひとりが喚き立てるようなシャウトで両者がそれぞれ、ときに重なりつつ曲を彩っていき、Napalm Deathの「Scum」のようにグラインドコアの伝統を感じさせる。ボーカルだけでなく曲もひたすら残虐性に振り切っているわけではなく。また金太郎的なジレンマに陥らず、きちんと曲によってそれぞれの個性が光っている。5曲目「Morbid Angel of Death」は中盤以降にハードコアのモッシュパートを彷彿とさせるゴリゴリ肉感的なリフを挟んでいたりする。ただし単純なメタルとハードコアの混交、または色んな音楽を混ぜ込んだごった煮ミクスチャーではなく、あくまでもデスメタル。というのも前述のハードコア・リフも全体を彩る豊富なリフの一つでしかない。練りに練ったリフで曲を組み立てるかっちりしたメタルから始まり、そこを足場にしているからどこまで行ってもピュアなデスメタルでい続けていることができている。
ゴアというどう考えてもアンダーグラウンドな音楽をやっているのに、そのジャンルの垣根を押し広げるような音楽性がひたすら面白い。tiwtterでは「踊れる」という言葉で表現されていたが、それも実際にこのアルバムを聞けば納得できた。メンバーの方が以前やっていたC.S.S.O.というバンドはグラインドロックをやっていたバンドだからデスメタルに何か別の要素を加えていく、という姿勢は納得できる。ただデスメタルバンドとしてゴアをもっと推し進めて尖った音楽を追求することだってできたと思うのだが、あえて表現の幅を広げつつ、あくまでもデスメタルという音楽性にこだわり続ける、というその姿勢から、さらにメンバーの方が長く運営しているObliteration Records、そしてディストロであるはるまげ堂のことも加味して考えると、なんとなくただひたすらデスメタル/ゴアグラインドを追求するというのと同じ軸で、この素晴らしい(と演奏している本人たちが思っているに違いない)音楽を楽しみつつもっと世に広げたい、という意思を感じるのは私だけだろうか。そういった意味では非常に挑戦的なバンドであり、まさに日本に腐臭を拡散するという意味で日本のデス界を牽引するようなバンドなのかな(シーンが厳格であるべき、そうではなく広がって行くべき、というようにここに関してはいろいろな意見があるとはお思うが。)、と思ったりした。

イントロが終わって2曲めが始まるところで良い意味で期待を裏切られた作品。めちゃくちゃ楽しい。非常におすすめ。
「Vice」加速してからの「ABC Butchers co.,ltd.」の流れがたまらん。

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