2018年1月2日火曜日

Tho Body & Full of Hell/Ascending A Mountain of Heavy Light

アメリカ合衆国オレゴン州ポートランドのドゥーム・デュオThe Bodyと同じく合衆国メリーランド州オークランドのパワーバイオレンスバンドFull of Hellとのコラボレーションアルバム第2弾。
2017年にThrill Jockey Recordsからリリースされた。LP盤を購入。
私は前作「One Day You will Ache Like I Ache」(タイトルが最高)が大変気に入っているアルバムなので今作も非常に楽しみだった。
幸いなことに2017年Full of Hellの最新作「Trumepting Ecstacy」のリリースに合わせた日本公演で両者のステージングを見れたのは良かった。どちらのバンドからも凄まじいエネルギーが感じられたし、バンドの今を確認できた。

激しく、そして先鋭的な音楽を演奏している2つのバンドだが、微妙にやっているジャンルは異なり、普通に考えればそのコラボというのはちょっと異質だと思うのだが、その先入観をふっ飛ばしたのが前作で、それはもうパワーバイオレンスとドゥームをノイズ、低速という共通項でもって一つに繋いだ、というかもう完全に融合した一つの別個の生命体だった。停滞する厭世感と爆発起動するヘイトを併せ持つ、不安定な物質としての純粋なニトログリセリンのように危険なやつだ。ハードコアにはなかなか出せない淀んだ停滞を強烈に全面に打ち出したその音楽性は個人的にとてもツボである。
今作も基本的に両者がっぷり四つの出来だが、前作とはやや音楽性が異なる。The BodyはFull of Hellだけでなく、Hexan Cloak、ThouやKrieg、日本のVampilliaなど多様なバンドとの合作を行っており、とくにFull of Hellとの2作に関してはどちらかというと主導権を握っているのはThe Bodyなのではと思う。はじめに聞いたところではさらにThe Body化が進んだのかと思ったのだが、来日公演で見たThe Bodyを思い出して微妙にそうではないことに気づいた。The Bodyの音楽性の変遷がこの共作にも影響を与えているのだ。来日公演ではThe Bodyの二人はドラムとギターを利用せず、ほぼ目の前にセットされた卓をいじることで音を出していた。なるほどノイズの要素は大きかったが、個人的に驚いたのはテクノ然としたはっきりとしたビートの導入だった。おそらくアナログシンセとビートマシンを用いているのだろう、凝った音というよりは実直でシンプルな音で驚いた覚えがある。
この共作でも電子音に対する愛着とこだわりが散りばめられている。前作ではまだ披露されていた速さという爽快感が徹底的にオミットされている。遅鈍さにDylan Walkerの強烈に喉に引っ掛けるような低音ボーカルが乗ってくる。垂れ流し系のズルズル演奏はスラッジを通り越した過剰装飾性すら感じさせるが、さらにそれを冷徹で重たいインダストリアルなビートがぐるっと一巻きにしているのだから明らかにやりすぎである。2つのバンドをつなぐ共通項がノイズ(単にハーシュノイズを用いた楽曲を制作するという意味ではなく、うるさい音へのアプローチとして)だったので、出来上がった音がうるさいのはわかりやすいのだが、冷徹なビートを用いるというところが面白い。もちろん単に今ハマっているから、という説明だけで充分なのだが(そもそも作り手側に説明を求めるのはお門違いであるが)、なんとなく意図が気になってしまうのが私だ。ミニマルなビートで陶酔させると言うにはあまりに曲の出来がカオティックで情報が多すぎる。そうなると垂れ流しに拍を導入することで引き締めるというのが一つあると思う。(逆に5曲目「Our Love Conducted with Shields Aloft」は生ドラムを叩きまくり徹底的にやりたい放題やっているのも興味深い。)うねりがあった前作に比較すると今回は曲の中で相克があって、抑圧感が半端ない。それがストレスに感じられる人もいるだろうが、個人的には「Didn't the Night End」「Farewell,Man」(邦訳すると「さよなら人類」になってたま感が半端ない。)の2曲はもうビートがおもすぎて最高。

Full of Hellの最新作のようなヘイトに満ちたデスメタリックなハードコアを期待すると、もったりと停滞したドゥームな世界観に驚くだろうが、根底にあるのはこの世に対する恨みつらみなのでそういった意味では全くぶれていない。バンド名知っているという時点で買って間違いない。今更速いとか遅いとかの話ではない。

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